立石の「勝景」を土産に…
【5月17日】
米子の球場を一歩出て歩けば、春の大山が綺麗に見えた。「おおやま」ではない。「伯耆富士(ほうきふじ)」とも呼ばれる、中国地方の最高峰「だいせん」である。
山陰で開催されたファーム・リーグ広島戦で故障明けのルーキーがスタンドを沸かせた。鳥取へ来て良かった。あらためて思う。山々の絶景もそうだけど、立石正広の勝景、ホームランをこの目で見られたことが何よりだ。
球団の方針で故障明けのルーキーに直接取材はできない。こんな時は本人の肉声を届けたいが、この阪神のスタンスを僕は「いいな」と思っている。長年「虎のドラ1」の取材対応の「難儀さ」を見てきた。メディアへの振る舞い方も勉強なんだろうけど、それは表舞台に上がってからで構わない。若い才能が「野球に集中」できる環境を整えたい。そんな藤川阪神の理念に異論はない。話を聞けないなら「見に行ってもしゃあない」とも思わない。試合前はスタンドからウオーミングアップを眺める。生々しい打球音を聞く。ベンチ裏の表情や仲間からの声掛け、そして地方ならではの励まし、砂埃…それらすべて現地取材の醍醐味だ。
この日、米子で出くわした旧知のカープ関係者から「どうしたんです?」と、訝(いぶか)しがられた。ふだんファームに顔を見せない古株が来れば「何かありました?」となる。「立石くんを見に…。そろそろ昇格があるかもしれませんから」といえば、「なるほど」と合点がいった様子だった。
とは言いながら、きのうは立石の昇格は「慎重に…」と、節介を書いたばかり。彼が痛めた「ハムストリングス=太もも裏」は厄介な箇所だという理由で…。ゆっくり上がってこい。1軍のゲームでそんな空気感があればいいとも記した。
さて、この原稿を米子からの帰路で書いている。立石の一発に気分を良くしながら藤川阪神の戦いぶりをネット中継で確かめる。両先発の快投で終盤まで0-0。七回表に均衡が破れ、その裏は先頭打者の梅野隆太郎がこの日2本目の安打で出塁したようだ。あかん…情景は浮かんでくるが、現場の臨場感抜きではまったく筆がのらない。
速報スコアで追った甲子園のゲームだけど、唯一の得点シーンだけはハイライト映像で確認した。1死三塁で野間峻祥の決勝打は小飛球でレフトの前へ落ちた。この打撃が野間の本意でなかったことは分かる。三塁走者は快足の辰見鴻之介。転がせば何とかなる。満塁の四回に左飛に倒れた野間の心情を察すればどうか。ポップフライと三振はNG…そんな心持ちで打席に向かったはずだが、スピン量の多い才木浩人の速球に押され浅いフライに…。これはもう紙一重というか運というか。7回9奪三振。才木が素晴らしかったことだけは手に取るように分かる。
0-1のスコアを見れば、得点力が恋しいゲームでもあった。来週、交流戦が幕を開ける。僕の心配性が立石のデビューを遅らせることはない。「そのとき」が迫っていることだけはしっかり米子で確かめてきた。=敬称略=
