伊藤稜の投資よ実れ
【1月24日】
寒天の尼崎でカネの話になった。キャンプ目前だから各地で自主トレに励んだ選手たちが続々とホームへ戻ってくる。いい緊張感に包まれるSGLで下世話な…と、叱られるか。
まだ年始のあいさつを済ませていない球団関係者と「本年も…」「こちらこそ…」。プロ野球の正月までカウントダウンが始まり「いよいよですね」なんて息を弾ませれば、ひょんなことから金融リテラシーの話題になった。
プロ野球ではほとんどの選手が昨年末までに今季の契約を済ませている。球界全体で金融知識のレベルが高い選手ってどれくらいいるのだろうか。まったく余計なお世話だけど、日経新聞を愛読する筆者は気になったりする。
例えばこんな話…。
年俸1000万円を年率2%の利息がつく預金口座に預ける。この口座への入出金がない場合、5年後の口座残高はいくらになっているか。
「20万×5年だから1100万円でしょ?」と答えられては困る。
バカにしてんの?と、やはり叱られるだろうか。これは「複利」への理解が必要なわけだけど、この思考、実は「野球の自主トレにも当てはまる…」なんて呟きながら大物(だいもつ)のグラウンドを眺めた。
「あっ、こんにちは。今年もよろしくお願いします」
SGLのメイン球場で伊藤稜がこちらへ向かって挨拶してくれた。反射的に「良かったね…」と声を掛けると、このたび1軍キャンプに抜擢された育成左腕は「いえいえ…」。彼らしく恭謙な面持ちだった。
藤川球児の期待値が高くなければ呼ばれない。「見てみたい」。虎将にそう思わせる何かがある。球児に叱られない範囲で僕の独断を書けば、そのひとつは伊藤の「投資」への熱量だろうか。といってもカネの話じゃない。いや、カネの話でもある。
球団のスタッフ、関係者を取材すれば、若くして伊藤ほど自分への投資を惜しまない選手は、プロといえど、稀少だという。森木大智が1位指名された21年ドラフトの入団だから今年5年目。1軍での公式戦登板はまだない。故障禍で長くマウンドに立てない辛苦の日々を過ごしたが、昨年はファームで23試合に登板。リタイアすることなく先発として腕を振り続けた。昨年の秋更改した年俸は推定350万。それでも肉体のケア、フィジカルの強化、技術進歩にかける出費を全く厭わない姿に周囲は感嘆する。
何か新しいものを習得するには相当な労力が要る。が、一旦それを習得してしまえば、本来基礎より難しいはずの応用は、ゼロから基礎を学ぶより労力は少なく済む。そんな「複利」思考は誰しも経験があると思う。
故障を乗り越え、投げる基盤、体力をつくった。ようやく土俵にあがった伊藤にとって「複利」の恩恵はここから。そんな気がする。宜野座のブルペンで連日バンバン肩を振ればオーバーワークになりがちだが、だからこそ、藤川球児が傍にいる環境を僕は勝手に歓迎している。=敬称略=
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