和田毅が応援する44歳
【6月9日】
1、2、3、4…。スタンドの観客は指で数えられるほどだった。かつて4万人の大声援をバックに投げていた松坂世代最後の大物が107人(公式発表)の前で右腕を振った。
兵庫県三田市のキッピースタジアムへ、関西独立リーグ兵庫対堺の公式戦を観に行ってきた。先日のことだ。
「きょうは久保投手が投げま~す」 球場のチケット販売テーブルで兵庫のスタッフが声高に宣伝していた。僕は1500円でチケットを購入し、バックネット裏の最前列へ。投球の軌道がよく見える「SS席」に陣取った。
久々に久保康友の投球を見させてもらった。DeNA時代以来だからおよそ8年ぶり。17時開始のナイトゲームで先発し、5回、77球。4奪三振、無失点で兵庫を快勝へ導き、勝利投手になった。最速は145キロ。藤川球児と同じ44歳だが、独立リーガーに混じっても佇まいは若々しい。球速よりも、その制球と持久力に驚かされた。
40代現役の松坂世代といえば、昨季限りで引退した和田毅だけど、ホークスのレジェンドは引退記念試合の会見でこんなコメントを残していた。
「松坂世代のみんな。ようやくゴールすることができました。しかし、まだもう一人居るんです。久保康友くんという同級生がまだ頑張っています。実は僕は最後ではないので、僕もこれからは久保くんを一生懸命応援していきたいと思います」
縁があって筆者は久保と普段からよく顔を合わせる。「世代最後の最後だね」と声を掛れば、彼は「僕の場合、『現役』といえるのかどうか…」と笑って謙遜していたが、今回5イニングの軌道を間近で見たうえで、はっきりさせたくなった。和田毅の言う通り、久保はまだ立派な「現役」だ。
最近2シーズンはドイツのプロリーグで投げていたが、今年は家族の事情で渡欧を自重。兵庫ブレイバーズのメンバーとともに汗を流している。今季は初登板の堺戦で127球完投。その試合も最速は145キロだったそうだ。
観戦したゲームの久保はマウンドの「先生」のようにも映った。20ほど歳の離れた野手がミスをすれば、優しく野球を教えるような仕草もあった。また、「久保見たさ」で球場へ足を運んだファンも多く、学生や会社員、地元の野球少年たちも目を輝かせて44歳のマウンドを見つめていた。
あらためて久保に聞いてみた。あなたが今も現役で投げ続けることで伝えたいメッセージがあるのかどうか。
「自分から発信したいタイプではないので…。ただ、選手が今後望む人生に何か役に立つことがあればうれしいですね。野球の技術、人生経験など、踏み台になることくらいはできるかなと思うので…」
彼の言動に触れて思う。これこそが野球振興ではないか、と。
90周年の阪神が「野球振興」を提題とし、より積極的に競技のそれを含めた野球人口、ファン増加への策励を先導している。それに共鳴する当欄も久保のように若々しく「伝える現役」であり続けようと思う。=敬称略=
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