泰然自若、一意尊心

 【8月31日】

 岐阜長良川球場のボルテージが最高潮に達したのは六回裏2死満塁。中田翔が打席へ向かったときである。スコアは2-0で巨人がリード。ここで追加点を奪えば…いけ、翔くん。打ってくれ…。

 が、カープ先発の床田寛樹が踏ん張った。背番号10はあえなく三振…。ため息はおそらく長良川のスタンドを埋めたG党だけではなかったはずである。

 最終回までドキドキだったけれど、最後は中川皓太が締めた。粘りきった。思わず手をたたいた。

 原巨人と新井カープ。どちらを応援するかといえば、決まっている。新井…と言えないところがもどかしい。新井貴浩には思い入れがあるし、彼が監督に就いてからも身内贔屓のような感覚で応援している。しかし、ごめん。新井には読んで欲しくないけれど、心が狭い自分がいる。というか、ちょっと余裕がなくなっている。

 岡田阪神の移動日にナイターのGC戦を観戦しながら、これを書いている。8月の最終盤に連敗したことで、カープの勝ち負けが他人事じゃなくなった。 

 こんなときこそ、泰然自若。

 新井が阪神時代によく語っていた心の持ち様だ。

 ゆったりと落ち着いて平常と変わらないさま。冷静な様子-広辞苑にそうある。

 当時、難しい言葉を使うねぇ…なんて言っていたら、あれはいつだったか、新井が「泰若自然…」と言い間違えたことがあった。

 ん?

 僕も最初は気付かずやり過ごしていると、傍らにいた金本知憲が「え?ちゃうやろ?」と、笑っていた。

 泰然自若。

 この日、東上した岡田彰布の心の持ち様なのかもしれない。

 周りがソワソワしていても、指揮官はドシッとしている。リーダー然として。

 心身が蝕まれそうな、この過酷なレースをどんな精神状態で戦っているのか。想像を絶する。すべて決着がついてから、是非とも聞いてみたい。

 一意尊心。

 昨年の秋、新井から送られてきた葉書、カープ監督就任の挨拶文でそんな言葉が記されていた。

 一意専心なら習った。

 他に心を動かされず、一つのことに心を集中すること-。

 でも、尊心は知らない。恥をかきたくないので調べてみたが、そのような言葉は辞書にない。さすがに一生に一度の挨拶文で書き間違えることはないだろう。だから新井に直接聞いてみた。

 一意尊心。あれは、どなたかからいただいた言葉?

 「自分で考えた言葉ですよ。みんなの心を尊ぶ。これにまっすぐ向き合うというか…」

 なるほど。新井らしい。

 さあ、9月。

 これまで通り、がむしゃらに?

そう問われた岡田は言った。

 「がむしゃらていうか、普通通りにな…」

 両将とも、惑わされない秋である。=敬称略=

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