本当のいい男なんだ
【1月12日】
高校サッカーの父ともいうべき小嶺忠敏が亡くなった。惜しまれた76歳。国見高校を6度日本一に導いた名将が遺した言葉がいま教え子たちの心に響いている。僕が耳にして感銘を受けるのは…
「サッカーが少し上手だからって、偉くもなんともないんだぞ」
昨年引退した大久保嘉人、現ヴィッセル神戸監督の三浦淳寛、そして、「アジアの大砲」高木琢也(現SC相模原監督)…挙げればキリがない名だたる小嶺チルドレンは、みんなこの言葉を胸に一流に育った。
若かりし小嶺が率いた島原商が初めて全国高校総体で優勝した時のキャプテン山田耕介(現・前橋育英監督)は、小嶺を追悼した日テレ系列のインタビューでこんなふうに述懐している。
「サッカーが上手いからって偉くない。日々精進してゆくそのなかで、人間的に成長して、いろいろな人に認められる人間。それが本当のいい男なんだよという話を(小嶺監督は)ずっとしてらっしゃいました」
僕は「小嶺忠敏」を取材したことがない。けれど、例えば、大久保嘉人…サッカー担当時代、取材で彼に少し触れただけで、この選手がどんな指導者に人間性を育まれたか、察しがついた。それほど大久保は人としても魅力的で、礼節においてはこちらが恐縮するほどできた人。小嶺先生の顔に泥をぬっちゃいけない…彼にはきっとそんな矜持があった、いや、ユニホームを脱いだ後こそ彼がずっと持ち続けるものだと思う。
前回の続きである。
勝負の世界で勝ちきれる人には必ずその条件が備わっていると感じる。
それは、人柄である。
例えば、藤浪晋太郎。
いやいや、その前に結果が出てないじゃん?この5年ほどの彼を見ている人はそう言うかもしれない。確かにそうだ。甲子園大会でめいっぱい輝き、プロで駆けだした黄金の3シーズンの面影はもうない。過去の栄光など一銭にもならない世界だから、「いまの晋太郎」は勝負の世界では負け。しかし、3年後、5年後は、どうか。
この5年間同様、今年も書くけれど、僕は「晋太郎は勝てる」と思っている。その理由は、人柄にある。「人柄」と「結果」を結びつけるデータなんてあるわけないので、これは20年ほどの取材活動で蓄積したフワッとしたものだけど、いつも、それほど的を外すことはない。
じゃ、あんたのいう人柄ってなんやねん?というハナシだが…そこで小嶺の言葉である。
野球が少し上手だからって、偉くも何ともないんだぞ-。
それを弁えながら野球と向き合っている選手かどうか。僕はそんなところを見てしまう。
晋太郎には、おごりがない。これは初見で面食らったことだけど甲子園春夏連覇の大スターがプロで3年連続2ケタ勝っても自らを俯瞰していた。「僕なんてまだまだ。全然ですよ」と…。続きは次回。=敬称略=