事実じゃありません
【11月5日】
阪神球団副社長の谷本修から筆者の拙稿のことで連絡をもらったことがある。「記述が事実と異なるのでは」と…。正確に書けば、取材対象者の発言が「事実ではありませんよ」とのご指摘だった。
僕らは取材した人物のコメントを記事にする。しかし、もしその人が事実でないことを発信すれば、原稿も事実と反することになる。取材者としては悩ましいが、書いた以上は筆者の責任であり、言い逃れができないことなので、誤解が広がらぬよう、すみやかに訂正する必要がある。
昔の話だけど、某球団を取材して、こんなことがあった。
主力選手が大勢の記者の前で眉をひそめながら言った。
「きょう新聞に載っていた記事ですけど、僕はこんなこと言っていないですよ」
すると、側にいたその球団の広報担当が同選手に対し…
「いえ、言っていましたよ。私も一緒に聞いていたので間違いありません。掲載されたコメントは正しくそのまま載っています」
球団の職員は選手側に寄り添うもの…だけど、この広報は毅然と選手の誤認を正し、時間を置いて選手も納得していた。
「フラットに対応しないと、のちのち選手が困る。言ったのに言ってないといわれて記事を訂正させられたら、記者や新聞社は、その選手や球団のことをどう思います?それに、そんなことが通る組織は強くならない。選手、球団を守るために言ったまでです」
その方は僕より歳下だけど、いま、同球団の要職に就いている。 彼は選手発信のSNSについても、こんな持論を語るのだ。
「SNSは、本心を伝えるという意味ではいいことが沢山ある一方で、あの時のように実は選手の思い違いもあります。人間だから感情的になって『しまった』となることもありますし。人気の主力選手になれば、発言は重くなる。『俺はそんなこと言っていない』といえば、ファンはそちらを信じますよね。事実でないことが事実になることだってあるので」
この広報とは違う人物だけど、同じような正義感を持つのが、日本ハムチーム統括本部副本部長の岩本賢一である。かつて岩本はメジャー時代の新庄剛志の通訳兼広報として、新庄とメディアの橋渡し役を担っていたが、いつも冷静フラットで、間違っていることは間違っていると指摘する彼の良心が「新庄劇場」を支えていた。
さて、きょうから雪辱を期すCSが開幕する。阪神がレギュラーシーズンの悔しさを払拭するため是非とも圧倒的な力で勝ち進んでほしいのだけど、その為に必要なことをエラそうにひとつだけ…。
矢野燿大はもちろん木浪聖也ら選手も口にする「全員野球」を球団、チームが一枚岩で貫いてほしいということ。一人でも、まして主力が心のどこかで離反、或いは何か都合よく発信し、それを球団が看過すれば「全員野球」はアドバルーンで終わる。今年の阪神は強い。だからこそ「全員で」栄冠を手にしてほしい。=敬称略=