神在月のくにから

 【10月20日】

 平岡洋二に会いに島根へ行ったハナシを先日書いた。平岡は広島のトレーニングクラブ「アスリート」代表で、あまたのプロ野球選手、アスリートが師事し…当欄の読者には有名な指導者である。

 その平岡と宍道湖(しんじこ)のほとりでランチをしながら取材させてもらったわけだけど、これまで島根に縁遠かった僕は平岡に聞いてみたことがある。

 島根は治安が良い街ランキング1位だとネットに載ってますね?

 「そりゃ、神の国だもん」

 開星高野球部の指導で長年島根に通う平岡はそう言うのだ。

 雌雄を決する神無月である。

 10月は「神の無い月」なの??その種の古事をご存じの方も多いと思う。島根では古くから10月を神在月(かみありづき)と呼んでいる。この月は全国八百万の神々が出雲大社に集まり神議(かみはか)りする。平安時代からの言い伝えである。神様が集まる…そんな「くに」は有り難いし、そこで生まれ育った者も有り難い…ということになるのか。

 神々しい満月の夜。急激に冬の到来を感じさせる10月の甲子園である。奇跡を起こせるとすれば、この二つを獲るしかなかった。誰もが、きょうは獲れる…そう思った瞬間があった。五回である。

 チーム初安打を放ったのは糸原健斗だった。それまで無安打に封じられていた高橋奎二の速球を、名誉キャプテンがレフトへ流し打った。そして、続く大山悠輔もヒットで続き、無死一、二塁…終わってみれば、ここしかなかった。 投手陣が踏ん張り「0」を並べただけに、この絶好機を活かせなかったのは痛恨。勝ち負けの結果責任を負う矢野燿大もそう感じているに違いない。

 こんな試合の後だから責任から逃げずに書くことにする。 

 僕は後半戦スタートの当欄で阪神が優勝を遂げるなら、そのキーマンは糸原健斗だと書いた。大山悠輔、佐藤輝明、近本光司、中野拓夢…いや、青柳晃洋でも秋山拓巳でも良かったのかもしれない。しかし、糸原だと書いた。

 根拠は僕の直感、インスピレーションでしかなかった。

 糸原は魂でプレーする選手だ-彼の恩師である開星高校監督・野々村直通からそう聞いたことがあったし、僕も彼の醸し出す特別な何かからずっとそう感じていたので「神在月」に強い彼を推した。

 昨シーズンの10月は、49打数17安打5打点。打率・347と神ったのが島根生まれの背番号33…。

 神よ頼む。満月の甲子園…世界中の虎党が祈りを捧げたはずだ。

 0-0の九回、2死二塁。ここで、この男に巡るのか。この夜2安打…。追い込まれてからファウルで粘り、敵軍守護神のマクガフに食らいついた。2年前にサヨナラ打を浴びせた右腕。しかし…。

 糸原がレフトへ飛球を打ち上げた、その瞬間、高津臣吾は4度、5度、手をたたき三塁ベンチを飛び出した。これで、もらった。敵将の面にそう書いてあった。奇跡が遠のいた神無月の夜である。=敬称略=

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