青柳晃洋こそ男前

 【6月22日】

 侍右腕が七回を0で抑えると、矢野燿大はベンチの青いラバーを4度、5度、叩いた。この回でお役御免となった青柳晃洋をそんな仕草で称えたわけだけど、僕も矢野と同じように、手を叩いた。

 ともに侍ジャパンに選出された大野雄大との投げ合いは「めちゃくちゃ意識していました」とヒーローインタビューで語った変則右腕である。7回を被安打4で自責は0。防御率が1点台に突入したことについて聞かれると、青柳は「あらためてその数字を言われたら結構すごいですね」と笑ったが僕が拍手を送りたいのは、この試合を四球1つで凌いだこと。

 その1つが大野へのものだったので(打者・大野を意識したわけではないだろうから)そこは口惜しいのだけど、片や、投手大野は与四球2つ。そのうち1つ(J・サンズへの与四球)が阪神の得点に結びついたので、青柳が制球でも侍対決を制したことが心地よかった夜である。

 青柳が日本代表で東京五輪に出場する。そう聞けば、彼のキャリアを知る者はみんな驚く。が、でもだからこそ「頑張れ!」の声も一層大きくなるのだ。

 コントロールが悪い。フィールディングがおぼつかない。もし、球団で決定権を持つ立場なら、仮に備考欄にそんな類が並ぶ大学生投手をドラフトで指名するか…。

 マイナス要素ばかりじゃない。投手として魅力的なその他の要素はある。それが◎だとすれば?

 いやぁ、それでも、それだけ欠点があるんでしょ。投手は投げるだけが仕事じゃないから…と、しかるべき立場の人は概ねそう答える…かもしれない。

 前監督の金本知憲にちょっと失礼な質問をしたことがある。

 1年目の青柳を見て一番のマイナス要素は何だったか?

 金本は言った。

 「そもそものコントロールと、フィールディングだな」

 それでも率先してドラフト指名した張本人にそんなこと聞くかと怒られそうだけど、それを知った上でなお、それ以上に青柳の魅力を感じていたことがよく分かる。

 つまり、もともと他の投手にはない大きな魅力がある素材の欠点を直せばどうなるのか。答えは簡単。日本を代表する投手になる。これが金本のアンサーで、事実、青柳はそうなった。

 もちろん、マイナス要素の克服は簡単じゃなかったと思うし、そこは青柳の努力に尽きる。

 バッテリーコーチ藤井彰人に青柳の制球力について聞いた。

 「詳しくは分からないですけどリリースが安定したのではないですか。あと…一塁へワンバン送球するようになって(制球)良くなったように思います。不安がなくなるのが一番ですから。最初は、僕も『え?』って感じでした。普通は格好悪いと思いがちですけどヤギは自分で(送球下手を)認めて、あれをやるのが凄い。僕なら普通に投げる練習しますもん」

 他人の目を気にすることなく。不要なプライドを捨てた青柳の勝ち。男前である。 =敬称略=

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