「今岡イズム」凱旋

 【5月25日】

 鳥谷敬が打って阪神が勝つ。大方の虎党が描いたドラマだった、はずだ。今季初となる鳥谷のタイムリーが生まれたその瞬間、スタンドからは万雷の拍手。本人の口元が「よっしゃぁ」と動いた。

 トリ、古巣に恩返し。

 本日のスポーツ各紙にはその手の見出しが躍るのだろうか。

 「おかえり」

 背番号00、いや、背番号1への応援ボードが揺れた阪神の交流戦初戦である。

 おかえり。

 僕も千葉ロッテのベンチへそう声を掛けたかった。

 鳥谷にはもちろん、もう1人…そう、今岡真訪である。

 今季からロッテヘッドコーチを担う今岡にとって久々の甲子園。三塁ベンチから眺めるマンモススタンドは何色の景色に映っただろうか。

 今岡とは彼が阪神を離れてからも年に一度は必ず会う。会ってたっぷりと野球のハナシをする。古巣のこと。ロッテのこと。井口資仁のこと…。これが僕にとってなくてはならない濃い時間であり、勉強の時間でもあるのだ。

 いやぁ、驚いた。

 井口が安田尚憲に代打を送った八回である。ロッテがL・マーティンの逆転弾で1点リードし、なお無死二塁の局面で、4番に代わり、ピンチバンター岡大海が告げられたのだ。

 おいおい、4番をそんなに簡単に代えるのか。原辰徳のように4番にもバントを命じればいいじゃないか。苦手??じゃ、安田にバントを練習させなきゃ…。そう考えるファンもいると思う。でも、今のロッテ首脳陣はきっとそうはさせない。

 このシーンを見て今岡の言葉を思い出した。

 「星野さん、岡田さん、二人とも本質を曲げない人でした。選手の長所、短所を含めた本質です。岡田監督は、僕が駆け出しの頃の2軍監督だったでしょ。例えば、僕がバント失敗して2軍に落ちるじゃないですか。岡田さんは『バント練習して来いって言われたやろ。そんなん、お前はなんぼバント練習してもメシ食えへんで』って真顔で言うんです。岡田さんは誰かに対して文句を言っているとかじゃなく、いつも本質を言う。僕はそれを分かっていたので…」

 17年ドラ1の安田はプロ入り後犠打数ゼロである。

 メシ食えへんで!

 今岡が安田にそう言ったかどうかは知らないけれど、きっとそういう理由である。

 矢野燿大はもちろん佐藤輝明にバントを命じなかった。阪神2点リードの六回1死一塁の場面だ。次打者は、得点圏打率12球団トップ(・519)の梅野隆太郎。是が非でも追加点が欲しい場面で佐藤は打って投ゴロ…これが失策を誘い好機は広がったが、結果的にこの回、得点はならなかった。

 ちなみに、佐藤もここまで犠打数ゼロ。じゃ、彼にしっかりバント練習させる?僕は…「メシ食えへんで」派である。=敬称略=

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