厳しさの中で身につくもの

 【9月3日】

 「甘い言葉をかける人ほど信用できない」-藤川球児が若虎へ贈った言葉がオッサン記者の胸に響いている。直に聞いたわけではないので発言の流れ、真意は分からない。でも、ずっと響いている。

 目標は勝つこと。それがプロ野球である。その目的地に達するまでのプロセスを決めるのが監督。ここ20年でいえば、星野仙一と岡田彰布のそれが正しい。そういうことになるのが、この世界だ。

 「勝つことではなく参加することにこそ意義がある」

 フランスの教育者で、1900年代初頭IOC会長を務めたピエール・ド・クーベルタンが語ったとされるオリンピックの精神である。当時この発言は度重なった米英の衝突を受けたものであり、続きはあまり知られていない。

 「人生において大切なのは、成功することではなく、努力することだ」-これがそうである。

 果たして、日本のオリンピアンでこの精神に忠実に戦った先人は何人いたのか。そんなことを思いながら勝つ為の「努力」…過程、手順のあれこれを考えたりする。

 昨年までヤクルトヘッドコーチを務めた宮本慎也と「指導論」について話した際、こんなことを聞かせてもらった。

 「評論家をやらせてもらって色んなスポーツを見ていると、一度ダメになったものが元に戻るときって、結局のところ、スパルタなんだよね。井村雅代さんのシンクロ(現在のアーティスティックスイミング)もそう。柔道もそう。今の子に合わせる部分も当然必要だと思うけど、プロである以上、負けてたまるかというそういう気持ちって僕は一番大事だと思う。それは厳しさの中で身につくものだと思うから」

 宮本は「難しい(問題だ)けど…」と前置きしたうえでそう語った。一年ほど前の話だから、あれから宮本の考え方が変わっていれば本人に謝らなければならないけれど、当時、僕は「なるほど…」と返し、賛、否どちらとも言わずプロ野球、そして阪神の歴史に照らし合わせてみた。

 時代の移り変わりとともに指導法も変わる。鉄拳、罵声などとんでもない。科学的、かつ自主性を重んじる時代である。昭和のやり方で生きてきた指導者が〈アップデート〉に四苦八苦する話をあちこちで聞く。では、原辰徳はどうか。果たして矢野燿大はどうか。

 僕の知る限り、選手時代の矢野は宮本に近い考え方だったように思う。だから、勝手に想像する。うまく運ばなければ、ときにジレンマに苛まれていないだろうか。

 「自主性」の結集で勝とう。このやり方が正解だと示すために勝とう。巨人に勝とう。2年で矢野メソッドが根づくとは思わない一方で、今年勝とうぜと思う。

 監督通算100勝に達したこの夜の戦い。矢野の表情、仕草をできる限り追った。Gの背中は近くないけれど、日本一になると決めた以上、甘い顔など…。今、矢野と話してみたい。触れれば火傷するような現役時代の矢野を懐かしみながら、そう思う。=敬称略=

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