名もなき面々の現在地

 【10月27日】

 マツダスタジムの記者席でこの原稿を書いている。広島から福岡へ、日本シリーズを追っ掛けながら我がタイガースも書いてゆく。

 延長十二回、今シリーズで見納めになる新井貴浩を眺めながら、先般のドラフトを思うのだ。カープの?いや、各方面から「失敗」と叩かれているタイガースの…。

 実は昨日、デイリースポーツの読者センター〈お客さま室〉に辛辣な声が届いていた。リアルに紹介する。「阪神は夢のないドラフトだ」「知らない名前ばかりで評価しようがない」「デイリーは球団に文句をいわないのか」「近本って誰だ」「スケールの大きな選手を獲らないと、ドラフトの意味がない」等々。件数は普段の数倍にのぼる。それだけ虎の未来を案じる読者は多いということだ。

 当欄は今ドラフトを結論づけることはしない。ビッグネームを指名すれば夢が膨らむ。紙面も華やぐし、ぶっちゃけ、上位の名前が派手なほうが間違いなく新聞は売れる。だから、デイリー的にも、スター藤原恭大を外したのは痛いのだ。けれど、ファンの関心はデイリーの売り上げではなく、猛虎の近未来である。であるならば、今ドラフトの評価はもうしばらくお待ちいただければと思う。

 近本は2位でも獲れたやろ!僕の周辺にもそう揶揄する人は沢山いる。〈いや、取材してみたら実は…〉と後出しで書くのも不毛。即戦力のローテ候補や左腕はどうなってるんや。ファンの気持ちはよく分かるし、正直いうと、外れクジは悔しいし、もどかしい。

 「それは分からないって。一昨年のドラフトだって『最悪』とか『夢がない』って散々批判されたよ。(大山、小野、才木、糸原、浜地…)誰やねん?って言われたけど、来年、再来年のあいつら見ててみ。『佐々木千隼(ロッテ)を1位でいくべきだった』と言われたりもしたけど、ドラフトの評価はすぐにはできない。5年、10年後どうなっているか。近本が盗塁王になったら、皆どう言う?」

 広島へ来る前に、金本知憲と会ってきた。雑談で今ドラフトの評価を尋ねてみると、前監督は「大山悠輔の1位指名」をやいやい言われた16年の秋を回想しながら、少し艶を取り戻した面持ちでそう語っていた。あの年、金本が指名を回避して「なぜ?」といわれた当時のスター佐々木千隼や田中正義は今季1軍登板ゼロ。でも、彼らだって分からない。結論はまだまだ先でいいじゃないか。

 98年、ドラフト6位指名〈事実上のコネ入団〉でカープに加入した男はまさに今、球界で最も幸せなフィナーレを歩んでいる。「なぜ、ウチは新井を指名しなかったんだ?」なんて他球団の声は当時ゼロ…というか、むしろ「なぜ、獲ったんだ」という冷ややかな声のほうが圧倒的に多かった。

 夢がない。名もない…かつてカープのドラフトもそう言われた時期があった。この夜、日本シリーズでスタメンに名を連ねた田中、菊池、丸、誠也、松山、野間、会沢、安部…そして新井貴浩。この中に甲子園のスター、いたっけ?=敬称略=

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