「10年発言」の真意

 【9月4日】

 おめでとう…。マツダスタジアムの一塁側ダッグアウトでそう伝えても、もう、誰からも異論は出ないだろう。まあ、それでもカープベンチに、まだそんな空気感はないけれど…。当たり前か。

 緒方孝市がカープを率いて2年目に25年ぶりのリーグ優勝を果たし、そこから3連覇…。90年代にこの球団を担当していた者からみれば、ホント、感慨深い。長きにわたる低迷期は、ここへくるまで忍耐のプロセス…いや、光の見えなかった当時は、少なくとも僕はそんなふうには思えなかった。

 昨年クライマックスシリーズで下克上をくらい、今年は潮目が変わるのか…と思ったら、いつの間にか王者のペースである。

 皆さん、「3月の鯉」を覚えてらっしゃるだろうか?オープン戦の戦績は3勝9敗2分けで11位。勝率・250。ヘッヘへ、今年はいける…あの頃ヨダレを垂らした球団はいくつもあった。我が阪神タイガースだってそう。オープン戦はそのカープを下回る最下位だったけれど、王者がもたついているものだから、シメシメ…と。

 でも、いざ本チャンの土俵で張り合ってみると、どうだ。巨人なんて酷いもので今季マツダスタジアムに限れば、1勝9敗1分け。阪神はこの試合を落として1勝5敗。東西の伝統球団が広島王国の栄華に“寄与”しているわけだ。

 この際書くけれど、阪神がとりわけマツダへくると勝てないのは今季に限ったことではない。和田豊政権の14年から4年連続負け越し中で、その4年間は16勝28敗1分け。20年前に3年間住んだこの街は今も愛着があるし、広島出張は楽しみなんだけど、マツダの取材は、いい思い出がない。

 前回の当欄(3日)で金本知憲とのやりとりを書いた。「10年発言」である。カープは黄金期に辿り着くまで25年かかった。山本浩二政権で優勝した91年から16年のVまで遠ざかったのだから、その間=25年。しかし、金本は「25年じゃない。10年だよ」だという。

 その持論は、ドラフト制度の歴史に裏付けされている。

 ドラフト上位候補選手が希望球団に入団できる「逆指名」「自由獲得枠」の煽(あお)りをモロにうけた球団がカープであったことは、野球ファンもよくご存じの通り。「一場事件」を挙げるまでもなく「経済力」がモノをいう仕組み…巨大球団に特A選手をもっていかれる…不正の温床にもなった偏向制度は、93年に導入され、06年を最後に廃止された。つまり…。

 25年ぶりのカープ優勝は、ドラフト制度が“公平”になった07年から10年を経た、16年シーズン。だから、25年ではなく10年…。カープは10年かけて強国をつくりあげたというのが、金本の認識だ。

 その07年度ドラフトでカープに入団したのが、丸佳浩であり、松山竜平であり、安部友裕。それ以降も、全国的に名のなかった面々を一流に育て上げ、ここまできた。カープでも25年…そう言っておけばファンの同情を買える。僕なんかはそう思ってしまう。でも、金本は「10年」と言う。=敬称略=

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