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タイガースの宝

 【10月10日】

 忘れもしない。あれは09年2月1日の夜だった。沖縄のチーム宿舎でせわしなくキャンプインの原稿を執筆していると、金本知憲から着信があった。「メシ、いこか」。待ち合わせたのは県中部うるま市内の焼き肉店。メンバーを確認せず向かうと、金本のほかに既に2人がテーブルについていた。

 「お疲れさまです!」

 安藤優也だった。

 金本から誘われたようで渡辺亮も連れてきた。取材ではよく話していたが、食事を共にしたのはこのときが初めて。公私いろんな話をさせてもらった。バカ話もしたし、真面目に野球の話もしたのだが、あれから8年も経つのに、不思議なほど会話の中身を覚えている。2ケタ勝てば高級腕時計…遊び心で盛り上がった「金本賞」について話していたときだ。あの当時先発ローテの軸を任されていた安藤はこんなことを言っていた。

 「プロはいつも野球に集中してとにかく野球を頑張ればいいんですけど、野球だけ頑張っていたら一流になれるかといえば、そうじゃないんですよね、きっと…」

 オリオンビールを飲みながら「安ちゃんらしいなぁ」と感じたし彼がチームメートから慕われる理由がよく分かる気がした。先日このコラムで川上哲治の名言を書いた。「野球人である前に、社会人であれ」。安藤はまさにそうである。法政大-トヨタ自動車と、社会経験を積んでプロ入り…いや彼の場合、経歴は関係ないのかもしれない。どう書けば通じるか分からないが、チーム内で安藤を悪く言う人を聞いたことがないし、その人柄は「タイガースの宝」だと思う。記者席もそうだけど、これだけ目頭を押さえる関係者が多い引退セレモニーはなかなかない。

 現在、虎のプロスカウトを務めるJFKのK、久保田智之もネット裏から安藤のラストピッチを見守った。かつて米国アリゾナで共に自主トレに励んだ先輩の引退試合にしんみり…。「言葉数が多いほうではなかったけど、人間的な優しさがにじみ出る人でした」。

 実は…安藤は先月中旬、同じく今季限りでユニホームを脱ぐ狩野恵輔に声を掛けていた。「同じ日に引退しようや」。でも狩野から断られた。「いえ僕は…。最後は安藤さんの日にして下さい」-。

 20勝したい。3割、30発打ちたい。不断の努力で夢を叶える選手はこれから先、タイガースの若手から出てくるかもしれない。でも実績で認められ、なおかつ安藤のような人格を備える選手となればどうだろう…。09年に開幕バッテリーを組んだ狩野は懐かしむ。

 「僕のリードが悪くて打たれたときも、安藤さんはベンチで『自分のせいです』とずっと僕をかばってくれた。そんなことが何度もあって。本当に、心の優しい兄貴のような…あんな人はいない」

 17年の143試合目は安藤ともう一人、新井良太にとってもラストゲームになった。お疲れさまでした。そんな一言で慰労できるはずもなく…。良太という選手は僕にとってずっと特別な存在で…。また、必ず書きたい。=敬称略=

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