「普通」にやられた

 【7月19日】

 やっと「走」で勝てる。そう思った。同点で迎えた六回の局面である。二塁打で出塁した上本博紀が1死一、二塁から三塁へ単独スチールを成功させた。タッチしたカープ三塁手の安部友裕はセーフの判定に不満そうだったが、何度VTRで見ても上本の右足が早いことが分かる。カープのお株を奪う「足攻」のお膳立てで1死一、三塁とチャンスが広がり、僕は「この試合、もらった」と思った。

 六回に勝ち越せば、七~九回は盤石のリリーフ陣でしのげる。中谷将大か鳥谷敬が上本を本塁へ返してくれるだろう。そう思いながら、戦況を見守ったのだが…。

 1点を追う七回に西岡剛の同点打が飛び出し、再びイケイケの場面をつくった。とはいえ、大局を振り返れば、やはり六回に勝ち越せなかったことが誤算だった。

 試合の結果はご覧の通り。阪神ファンからすれば、八回決勝タイムリー二塁打の新井貴浩に「やられた感」が残るかもしれない。けれど、これで負けた…と僕が白旗をあげたのは、その次の失点である。続く安部の右前打で新井の代走、野間峻祥が迷いなく二塁から生還した。記者席で見る限り、定位置より浅いゴロ。福留孝介の守備力を考えれば三塁ストップが定石だと思ったが、カープベースコーチの河田雄祐は躊躇なく右腕を回し、2点差をつけられた。

 この夜、チームの代表としてキャプテン福留孝介に聞いておきたいことがあった。オールスター明けの3連戦で見せつけられたカープの走塁についてである。この際セ・リーグ最多のチーム67盗塁は横に置いておく。盗塁ではなく、走塁の力によって阪神が辛酸をなめた直接対決だったように思うのだ。前夜の2戦目は外野の間を割られた打球で一塁からの生還を二度許し、馬力の差も感じた。

 「あれは普通。普通のことだと思います。あそこは(ベースコーチが)回すと思ったし、あれは回してくるんだと、常に思って守らないといけない。打つことだけじゃなく、走ることによる相手へのプレッシャー、守備による(相手走塁への)プレッシャーを与えていかないといけない。うちのチームの若い選手も少しづつそのあたりの意識は出てきている。実際にそういうプレーができるかどうかは個々が常にどう思っているかによりますけど…。脚力の問題じゃない。意識の問題ですから」

 福留はそんなふうに語った。

 金本知憲は中日時代の福留と対峙するとき、「打」以上に彼の「走」を警戒していた。現役時代、何度も聞いた、荒木雅博や井端弘和とともに、その隙のない走力に阪神が翻弄される度、金本はこう漏らしていた。「中日に走塁の差で負けた試合が年間いくつあるか…。走塁は脚力より意識の問題」

 前夜は9失点。この夜は14失点…。そんな大敗でもカープ自慢の盗塁数は3連戦で3つだけ。ここぞの走塁に阪神は飲まれたのだ。「力の差はある」。金本は潔く認めた。その一方で「意識」ひとつで埋められる差があることも知っている。=敬称略=

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