「トップ会談」で残したトンカツ2切れ「松とら屋」松下雄一郎さん悼む コンテンツ局次長・岩田卓士

 元デイリースポーツ社員で、「松とら屋本舗」で執筆を続けていた松下雄一郎さんが、8日に亡くなった。昨年4月に大腸がんが判明し、闘病を続けていた。55歳。神戸市出身。葬儀・告別式は近親者で執り行った。

  ◇  ◇

 さあ、いこか-。

 2005年の阪神リーグ優勝時、私が書いた1面原稿の1行目と締めに使ったフレーズだ。1行目は胴上げへゆっくりと向かう岡田監督の心境、締めはこれから日本一を目指す意味で使った。自分でもぶっ飛び過ぎたかなと思う原稿を、この年、同じトラ番だった松下は「最高傑作」と20年間ほめ続けてくれた。

 「オレの悼む原稿書いてくれますよね。あの優勝原稿みたいに。でも“いこか”の字が違うか」

 そう言って笑っていた松下が旅立った。ほんの2週間ほど前、目の前でクリームソーダをうまそうに飲んでいたのに。アホな話もしていたのに。

 「トップ会談しましょうよ」

 たまにそう言って2人きりの秘密のメシ会に誘われた。「だれがトップやねん」と言いながら、松下の原稿論、取材論、記者育成論を何度も聞いた。酒は飲めない。ヤンキージャージー姿の男が、ジュースを飲みながら同い年の私に熱弁をふるう。周りから見たら不思議な光景だっただろうが、仕事に対してはいつもまじめにふざけていた。

 松下理論は理想論に近かった。だれもが実践できるものではない。ただ、その熱い思いのままデスクなど指示をする側に立たせてみたかったが…。3年前、デイリースポーツを辞めた。

 「オレの原稿は紙とインクの香りを感じながら読んでほしいんです」。新聞社がデジタル化を進める中、最後まで紙にこだわり、組織の枠組みから飛び出していった。

 2週間前はクリームソーダだけ。最後に2人きりで食事をしたのは2月。トンカツ定食を食べた。大食漢だった松下が「もう腹いっぱい。食べてください」と言って、2切れ残して私に差し出した。何も言わずに食べた。このとき、自分なりに別れを覚悟した。

 松下、もう母上様と再会できたか?「アホ!まだ早いわ」って言うてるやろ。えんま様より怖いかもね。まあ、久しぶりに怒られときいな。ほんま早いって。(コンテンツ局次長・岩田卓士)

 ※松下様のご葬儀は、家族葬にて執り行われました。ご弔問、ご香典、ご供花、ご供物等は一切ご辞退されております。ご自宅への訪問等もお控えください。何卒ご理解いただけますようお願い申し上げます。

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