阪神・近本 シーズン中に異例活動の理由 毎月1回月曜に子どもたちと交流「野球へのモチベーション全然変わった」

 阪神の近本光司外野手(30)が28日までにデイリースポーツなどの取材に応じ、自身が理事を務める一般社団法人「LINK UP」が25日に設立発表から一年を迎えた心境を明かした。現在チームトップの打率・317を記録するなど好調。「LINK UP」の活動がモチベーションとなっていることを明かした。2期目へはさらなる規模拡大を思案中。阪神の野球振興室とタッグを組んだ地元・淡路島での野球教室開催も計画している。

 昨年の4月25日に設立を発表してから一年がたった。社高の1学年先輩・石井氏に自ら声をかけ、スタートさせた一般社団法人「LINK UP」では主に離島支援に取り組んできた。

 「僕はスタートすることがすごい大事だと思っていた。スタートできたのは、すごいうれしいことだし、すごい大きな一歩。すごくいい一年だったなと思います」

 昨年はシーズン中に「夢プロジェクト」として地元・淡路島の子どもたちを甲子園に招待。オフには淡路島の自主トレでトークショーなどのイベントを開催した他、沖永良部島の子どもたちとも交流。さらに芦屋市の中学生を対象としたプロジェクトも開始した。

 「いろんな会社、自治体を巻き込みながら大きくなっていっていたので、想像よりスピード感もありました。その中で思っていた以上にプレーにも影響することがたくさんあって。子どもたちと関わることで、野球へのモチベーションは全然変わりました」

 「LINK UP」の活動が原動力となっている。28日時点で24試合に出場し、101打数32安打、7打点でチームトップの打率・317。リーグ3位タイの3本塁打を放ち、リーグトップの6盗塁も決めるなど好調だ。ただ、勝負はここからだ。

 「6月、7月ぐらいになったら、試合の流れとかシーズンの流れで、落ち着いてくるんですよ、悪い意味で。その中でLINK UPの活動をして、こういう人と会った、こういう言葉をもらったっていうので、モチベーションが上がるんですよね。野球だけの生活になってしまうと、ヒットを打った、勝った、ヒーローになった、だけでしかモチベーションって変わらない。それ以外で自分の感情を揺さぶることができるのは、現役選手としてはすごい大きいのかなと思いますね」

 現役選手では異例の二足のわらじをはくが、どちらも手を抜くことはない。

 「(LINK UPの理事の一人が)『プロとしての行動をしないといけない』と言っていて。野球の仕事もしっかりして、LINK UPにも全力で関わらないと、それはプロとしての行動ではないのかなと感じたので。ある程度成績は見えてくるじゃないですか。それが逆にだめなんだなというふうには思いましたね。最後まで上を目指してやっていくっていうのを感じました」

 2期目に突入し、さらなる規模拡大も目指している。昨季シーズン中の交流は淡路島の子どもたちを甲子園に招待した時のみ。今年は触れ合う機会も増やしたい。

 「もっとプロジェクト、対象を増やしたいなっていうのはすごい思っています。モチベーションを作りたいなと思っていたので、月曜日を設けさせてもらった」

 近本も参加しやすいように、毎月1回月曜日の放課後、芦屋市の中学生を対象とした「一歩踏み出す勇気 未来につなぐプロジェクト」を組むことが予定されている。

 「シーズン中は、毎月の芦屋のプロジェクトに顔を出すのが、メインになってくるかなと。子どもたちと会ったり、初めて会う人と話したりすることで、脳に新しい刺激が入ることで、すごいリフレッシュにもなる」

 毎年オフに行っている淡路島での自主トレの規模を拡大することも計画中。阪神の野球振興室とタッグを組み、シーズン中とオフに野球教室を開催するプランがある。淡路島の3市とは包括連携協定を結ぶ予定で、島を挙げて盛り上げていきたいという。

 石井氏「野球をまだ手に触れられていない未就学児の方とか向けに、野球の普及活動を、淡路島中心にやっていこうと話している。淡路の食べ物を紹介できるようなブースを作ったり、違うスポーツも入れつつスポーツ振興も考えています」

 新たな一歩を踏み出し、過ごした一年間。多忙な日々を過ごすが、近本の表情は充実感にあふれている。

 「今のところはやってよかったです。先は分からないですけど。ずっとこういう思いがあってできなかったので、その差を知ってるから、よりやってよかったなって」

 子どもたちとの交流を活力にしながら、今後も夢を与えるプレーを見せ続けていく。

 「楽しむ心で人をつなぐ」を合言葉とし、子どもたちの選択肢を広げようと活動している。その中で近本自身も発見はたくさんあるという。

 「コロナ禍で自分の見える範囲だけで、この三年間進んでしまっていたなというのをすごい感じて。だからいろんな人とも会いたいですし、いろんな人と話して、自分の意見、思い、考えだけじゃなくて、石井の考えもそうですし、そこから協力してくれる方だったり、子供たちだったりの考えがすごく野球につながることが多い」

 人と関わることで自身の視野も広がった。そしてそれを野球に結びつけ、いい結果を導いている。

 「『あ、これ僕結構好きだな』というのを考えることもすごく増えたし、自分でも理解できるようになって、じゃあ野球にどうつなげていくか。野球だったらこういうこと好きだしと考えていけば、自分が楽しんでやった結果、いい結果につながることも多くあると思うので。『あ、そういうふうに考えればいいんだな』とつながってきたかなと思います」

 引退してから会社を設立し、社会貢献する例はあるが、現役選手がすることはレアケースだ。だが、近本は現役選手だからこその意味を感じている。

 「(意味は)すごいあると思いますよ。どうしても引退すると、その対象の子どもたちって、今僕が頑張ってることって見えないわけじゃないですか。でも現役だと、今テレビの中でこんなプレーをしている、球場に行ったら4万5000人の中でプレーしてる人が今、目の前にいるってなったら、子どもたちにとってはすごいインパクトがあると思う」

 ただ印象深い思い出をつくってあげるだけでなく、子どもたちに思いを伝えていきたい。そしてその思いを受け継いでいってほしい。

 「将来大人になった時、近本ってこんなことしてたな、こんな思いがあって、こういうふうに子どもたちに、地域の人に貢献してたなって思ってもらって。自分もそれをしてもらったから、自分の地元のために、今の子どものために何かやってあげられることないかなっていうふうにつながってもらえたら、僕はうれしい」

 自身も同じような経験をしたからこそ、そう考えている。近本は小学5、6年生の時、阪神とオリックスの野球教室に参加したことがあった。

 「何を教えてもらったかっていうのは全然覚えてないですけど、目の前でやってもらったっていうのはすごい覚えているから。だから自分も今の子どものために、淡路島のために何か貢献したいなっていうふうにつながった」

 現在は県内県外合わせて10市の協力を受けており、淡路島の3市とも包括連携協定を結ぶ予定。芦屋市とはすでに包括連携協定、母校・関西学院大とも提携協定を結んでいる。自治体の協力を得られるのも、組織化したことが大きい。そのほかにも近本が一般社団法人として立ち上げたことには理由がある。

 「引退した後って、どうしても社会貢献にあてるお金も減るわけじゃないですか。じゃあ、自分の生活が苦しくなった時に、それを続けられるかって言ったらそうじゃない。僕が死んだ後って、じゃあ誰が続けるのっていうのもあるので。だから現役中から会社を設立して、僕がいなくても成り立つような仕組み作りっていうのは、すごい大事だなとは思っていたので。現役中にある程度の形にはと思っている。引退した時に一年目はまだまだ小さかったなって思えるような形になれれば」

 近本の理想はこの活動が続いていくこと。子どもたちに社会貢献の大切さも伝えながら、それを受け継いでいけるグラウンドを今からつくりあげていく。

 ◆一般社団法人LINK UP 地方創生、教育支援、産学官民連携をビジョンに掲げ、24年2月に設立。石井僚介氏が代表理事、近本が理事を務める。これまでに芦屋市教育委員会、関学大などと連携協定を締結。地域と人を結ぶ懸け橋となるべく、子どもたちを対象としたイベントやプロジェクトを実施している。

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