阪神・原口から高校球児へ 「言葉にならない」センバツ中止 「過ごした日々誇りに」

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、今春のセンバツ大会が中止された。シーズンの開幕も延期される中、阪神・原口文仁捕手(28)が、球児たちに熱いメッセージを送る。帝京3年夏に甲子園に出場。ベスト8入りした活躍がプロ入りの道を切り開いた。クビ寸前だった育成選手契約、大腸がんの手術から復活。逆境で輝く男の矜恃(きょうじ)を激励の言葉に替えた。

  ◇  ◇

 目を閉じれば鮮明な光景が脳裏に浮かぶ。手には白球の感触が残る。11年前の夏。最後の打者を空振り三振に打ち取り、原口は念願だった甲子園の切符をつかみ取った。度重なるケガに打ち克(か)ち、がんをも克服したプロ野球人生。シンデレラストーリーの序章は、帝京野球部で過ごした3年間にある。

 「僕とは比較にならないです。センバツですからね。高校生にとって小さい頃から夢みて、目標にしてきた場所ですから。本当に言葉にならないです」

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、今春のセンバツが中止された。同じ道を歩んできた先輩…いや、同志として伝えたい思いがある。「すみません、何度も同じこと言っていますよね」。語る口調は自然と熱を帯びた。色紙に綴(つづ)った文字は、納得するまで書き直した。

 逆境を

  力に変えて

   大きく成長-

 大切にする言葉を体現してきた野球人生だ。帝京では入学当初、外野を守った。打球に追いつけず、内野、投手と転々。たどり着いたのが捕手だ。上級生の故障離脱で巡ったチャンスでもあった。「真面目さが技術を磨く。彼には努力できる才能があった」とは同校の前田三夫監督(70)だ。「甲子園に出たら人生が変わるぞ」-。恩師の言葉だけを信じて白球を追った。

 「甲子園で人生が大きく変わるっていうのは、自分が一番体感したことですから。最大の目標を失って落ち込んだり、喪失感は必ずある。でも、この逆境を力に変えることができたら、それは本当にすごいことだと思う」

 原口はセンバツを逃し、夏に念願の出場を果たした。「チームがバラバラになりかけたこともありました。でもピンチだからこそ結束して、さらに強くなれるチャンスです」。聞いてきた恩師の言葉通りに見える景色が変わった。ベスト8に進出。4割近い打率を残し、日本代表にも選ばれた。3年春まで無名だった男が一躍、プロ注目の選手になった。

 ただ、プロ入り後も苦難の連続だった。腰痛に右肩痛。度重なるケガで育成選手契約も経験した。背番号124からの再出発。そんな3年間の先に、16年の大ブレークを迎える。昨年1月には大腸がんを公表。後に「ステージ3b」だったことも明かしたが、手術を経て、6月4日のロッテ戦で1軍に復帰した。

 大腸がんを告知された日でさえ、担当医に「練習してもいいですか」と聞いた。代打出場即タイムリーで日本中の感動を呼ぶと、プラスワン投票で出場した球宴では2戦連続の本塁打。逆境のたびに強くなった。原口は力に変えてきた。野球の神様はそんな男に、最高のプレゼントを用意した。だからこそ、伝えられる言葉がある。

 「応援してくれる家族、支えてくれる人がいる。いい姿を見せて恩返しがしたい。このままじゃ終われない、という強い気持ちがあった。今を大切にしてほしい。そうやって過ごした日々をプライドじゃなく、誇りにして生きてほしいです」

 驕(おご)りではなく、誇りに。英訳では同じ言葉も、使い方で違う意味を持つ。11年前の夏。原口の人生は180度、違う景色を映した。球児たちは今大会が中止になり、夏の出場が確約されているわけではない。ただ、夢舞台を目指す日々は生きる支え、励みになる。努力の過程、気持ち次第で違う景色を映すと信じる。逆境を力に。誇り高い人生を歩んでほしいと、同志として強く願っている。

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