「阪神８－３ＤｅＮＡ」（１日、甲子園球場）

　４１歳のベテランがダイヤモンドを駆け回った。阪神・福留孝介外野手が初回、無死一、三塁から左前へ先制打。五回には左中間へ２点二塁打を放つと、敵失も絡んで一気に生還した。さらに七回には右中間へ１３号ソロを放ち、この日３安打４打点。頼れる主将がチームを７月２５日以来、３８日ぶりの甲子園勝利へと導いた。

　激走の末にホームへと戻ってきた。福留がほえる。値千金の逆転打。苦しい現状を打破していくのは、グラウンドに立つ選手自身。若手よ、見ていたか－。「明日僕がいなくても探さないでね」。ニヤリとしたその笑顔は、疲労感よりも充実感でいっぱいだった。

　「もっと自分たちのことを表現して、明るく野球をしようよ」

　ガッツポーズに、雄たけび、そして力強いハイタッチ…。プレー以外で、福留が若手選手に伝えようとしていたことがある。この日のミーティングでのことだ。チームは甲子園に戻り、３連敗中。気持ちも自然と暗くなっていた。「言ったからには率先してやれるように。気持ちを前面に出していこうという思いだった」。珍しく感情を表に出したのには、主将自らがチームを活気づけたかった熱い思いからだった。

　１点を追う五回だ。糸原、北條が作った無死一、三塁のチャンス。外角の直球を狙った。左中間への大きな当たりで、２者が生還。さらには相手の悪送球も誘い、足を緩めることなく福留自身も一気にホームへと帰ってきた。激走でつかんだ適時二塁打で、試合をひっくり返した。

　福留ショーは止まらない。初回にも無死一、三塁から先制の適時打を放ち、先頭打者として迎えた七回には１３号のソロアーチを右翼席へかけた。今度はゆっくりと、大歓声を一身に浴び、グラウンドを静かに一周した。

　時節は長月。月が変わり、チームが変わるのは今だと直感した。ミーティングでは話をこう、続けたという。「９月に入ったってことで新しい気持ちでやっていこう」。１２安打８得点と打線爆発の裏にあったのは、主将からの魔法の言葉。苦しんでいた猛虎打線は、福留に力強く引っ張られ、現状打破へと進んでいく。

　勝利に導いたのは、自分だけではない。開口一番に出た言葉はねぎらいの言葉だった。糸原－北條の若虎１＆２番コンビへ。「塁をにぎわせてくれたね」。優しさと強い言葉で引っ張るのは、キャプテン福留孝介。その熱き思いが、聖地のグラウンドにあふれていた。