【狩野目線】伊藤隼がはまった代打の落とし穴

 8回、初球をファウルする
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 デイリースポーツ評論家の狩野恵輔氏が独自の視点からプレーを分析する「狩野目線」-。5月29日のソフトバンク戦(甲子園)に代打で登場した伊藤隼に焦点を当てます。空振り三振で結果を残せなかったが、現役時代にピンチヒッターとして活躍した同氏が指摘したのは“代打の落とし穴”。1球で主導権を握り、優位な立場になった時ほど、慎重なメンタルが必要だと分析した。

 代打というポジションは“割り切り”が必要だと言われます。実際に僕も現役時代、代打で成功率を高めるために状況によって球種、コース、さまざまなボールの絞り方をしました。試合を見ていて選手と考え方が一致したのが、5月29日のソフトバンク戦。八回2死満塁から代打で登場した伊藤隼太。初球、フォークをファウルした形、スイングを見てこう考えました。

 “真っすぐ待ちで変化球に対応できる”-。実際に僕が本人に話を聞いても、そういう答えが返ってきました。相手の加治屋は、ウエスタンのゲームで何度も対戦してきた投手。お互い手の内を知り尽くす中、決め球にもなり得る低めのフォークを一塁側へ引っ張ったファウルを打ったことで、この落差、スピードであれば直球にタイミングを合わせて変化球を待つ。実際に僕が打席に立っていてもそういう絞り方をすると思います。

 たった1打席の中で早いカウントのうちに狙い球を絞れることは、代打にとって主導権を握ったも同然。精神的にも余裕が生まれ、プラス思考で2球目から勝負できる。加えて加治屋はまだ、ああいう緊迫した場面で常時、起用されている投手ではありません。力関係を見ても、1球で伊藤隼が優位な状況に立てたと思いました。

 ただそこに、実は“代打の落とし穴”が生まれます。僕も現役時代、何度も何度も苦い経験をさせられました。ああいう緊迫した場面で苦しい状況に立たされた投手は、本来よりも腕が振れなくなったり、必要以上に引っかかるなどイレギュラーなことが起きやすくなります。

 カウント2-2からの5球目、伊藤隼のバットは“当たるはず”のフォークに空を切りました。その軌道は初球よりも落差がなく、“半速球”のような印象を受けました。加治屋自身が押し出しを意識し、フルカウントにしたくなかったばかりに、指先から抜けきらなかった失投。当たる、優位に立っていると思っていたからこそ、あり得ない軌道に伊藤隼は対応できませんでした。

 試合後、本人に話を聞くと率直に「失敗しました」と言っていました。初球のファウルですべてイメージ通りに進んでいただけに、痛恨の1球だったと思います。先発で4打席ある場合は試合の中で対応していける。でも代打の場合は打席の中で瞬時に対応していかなければなりません。

 だから伊藤隼の絞り方、割り切りは決して間違ってはいない。ただ主導権を握った時ほど、メンタルをより慎重な方へ持っていかなければなりません。それが代打の難しさではありますが、伊藤隼はこれをいい教訓として頑張ってほしい。何よりも自身が反省できているからこそ、この失敗は次へ生きると思います。

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