少子高齢化に直面する自衛隊 外国人を登用? そのメリットとリスクを検証

自衛隊への外国人登用を検討すべきだとの提言が、議論を呼んでいる。笹川平和財団は9月2日、人口減少などによる自衛隊の人手不足への対応策として、外国人の登用を検討するよう小泉進次郎防衛相に提言した。

もっとも、これは「外国人を自衛官として大量に採用する」という単純な構想ではない。提言では、戦闘行為など公権力の行使や国家意思の形成に当たらない業務を対象とし、国籍も同盟国・同志国などに限定することや、アクセスできる秘密の程度を制限することなどが示されている。

■日本国籍が応募条件

現在、自衛官の採用では日本国籍が応募条件となっている。防衛省も「日本国籍を有しない者」は自衛官の採用試験を受けられないとしている。

その背景には、政府が国家公務員の任用について示してきたいわゆる「当然の法理」がある。これは、公権力の行使または国家意思の形成への参画に携わる公務員については、日本国籍を有する者が就任することが想定されるという考え方である。

したがって外国人登用を実現する場合、単なる募集制度の変更だけではなく、自衛隊の各職務について、公権力の行使や国家意思の形成との関係を整理したうえで、国籍要件を含む制度を検討する必要がある。

■人材確保の選択肢を増やせる可能性

それでも外国人登用には一定のメリットがある。最大の理由は、人口減少によって自衛隊の人的基盤そのものが縮小していることである。自衛隊は高度な装備を保有していても、それを運用し、整備し、後方を支える人員が不足すれば、防衛力を維持することは難しい。特に通訳、情報通信、サイバー、整備、医療、補給など、必ずしも戦闘そのものに従事する必要のない専門分野については、日本人だけを対象とするより、一定の条件を満たした外国人にも門戸を広げることで、人材確保の選択肢を増やせる可能性がある。

また、外国人の登用は国際的な人的ネットワークの形成という面でも意味を持ち得る。外国軍との共同訓練や情報交換、同盟・同志国との協力が重要になる中、異なる言語や文化、軍事制度に精通した人材が組織内に存在すれば、国際連携を支える能力の向上につながる可能性がある。笹川平和財団の提言も、オーストラリアでは一定の条件を満たしたニュージーランド、米国、英国などの国籍者に軍への入隊資格を認めている例を紹介している。

■最大の論点は安全保障上の情報管理

一方、外国人登用には明確なリスクも存在する。最大の論点は安全保障上の情報管理である。自衛隊は防衛計画、部隊運用、装備性能、情報収集能力など、極めて機微な情報を扱う。外国籍者を採用する場合、本人の意思とは別に、出身国の法制度、外国政府からの働きかけ、家族や経済的な利害関係などが情報保全上のリスクとなる可能性がある。これは外国籍者そのものを危険視するという意味ではない。重要なのは、誰がどのような情報にアクセスできるのかを明確にし、国籍だけに依存しない多層的な情報保全制度を構築することである。

また、同盟国・同志国の国籍者に対象を限定したとしても、リスクが完全になくなるわけではない。友好国との関係が安定しているからといって、個人レベルの情報管理上の問題まで自動的に解消されるわけではないからである。外国人登用を実施するのであれば、国籍要件に加え、厳格な身元確認、職務ごとの秘密へのアクセス制限、必要最小限の情報共有、継続的な適格性確認などを組み合わせる必要がある。

さらに、有事における服務義務や指揮命令系統についても制度上の整理が欠かせない。自衛隊は民間企業とは異なり、国家の防衛を担い、場合によっては隊員自身が生命の危険を伴う任務に従事する組織である。外国籍者が日本の防衛任務に参加する場合、どのような義務を負うのか、緊急時にどのような服務を求めるのか、退職や離脱をどのように扱うのかなど、平時だけでなく有事を想定した制度設計が必要になる。

■人口減少が進む日本において、防衛力をどのように維持

もっとも、外国人登用を導入すれば自衛隊の人手不足が解決するわけではない。現在の人的基盤の縮小には、少子化に加えて、若年人口そのものの減少、採用環境、処遇や勤務環境など複数の要因が関係している。そのため、待遇改善や採用制度の見直し、無人化・省人化、予備自衛官制度の活用などを進めることが先行すべきであり、外国人登用はそれらを補完する選択肢として位置づけるのが現実的である。

したがって、外国人登用を「人手不足だから外国人を入れる」という発想だけで進めるのは適切ではない。むしろ、戦闘部隊や重要な機密情報を扱う職務と、専門技能を必要とする後方・技術分野を明確に分け、国籍、身元確認、秘密へのアクセス、継続的な適格性確認などについて厳格な基準を設けることが重要である。さらに、外国人登用によって得られる人的資源と、安全保障上新たに生じ得るリスクを比較し、職種ごとに導入の可否を判断する必要がある。

重要なのは、外国人登用を導入するか否かという二者択一ではない。人口減少が進む日本において、防衛力をどのように維持するのかという問題の一環として議論することである。日本人の採用拡大、待遇改善、無人化・省人化、予備役の活用などを進めてもなお人材が不足する分野について、同盟国・同志国などから一定の条件を満たす人材を限定的に活用するという選択肢は検討に値する。ただし、自衛隊という国家の安全保障を担う組織である以上、単純に採用人数を増やすことが目的になってはならない。誰を、どの職務に、どの範囲まで配置し、どのような情報管理と服務義務を課すのか。その「質」と「管理」の設計こそが、外国人登用をめぐる議論の核心なのである。

◆和田大樹(わだ・だいじゅ)CEO, Strategic Intelligence Inc. / 代表取締役社長 専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、経済安全保障、地政学リスクなど。海外研究機関や国内の大学で特任教授や非常勤講師を兼務。また、国内外の企業に対して地政学リスク分野で情報提供を行うインテリジェンス会社の代表を務める。

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