野球は不可、弓道も中2で禁止…「やりたいことができない」先天性心疾患の男性 それでも見つけた「持病がある自分だからこそできること」

持病や特性など、生まれ持ったものが生きづらさに繋がると、人は生き方に悩む。「ファロー四徴症」という先天性心疾患を持つ新村俊介さんは、“やりたいことに限ってできない悔しさ”を味わってきた。

新村さんの人生には、何度も“できない”が立ちはだかった。しかし、生きる中で「持病がある自分だからこそ、できることがある」と思えるようになったという。

■先天性心疾患があって、”やりたいこと“ができなかった学生時代

新村さんは、心臓に4つの構造異常がある指定難病「ファロー四徴症」だ。幼少期から医師による説明を両親と共に聞いていたため、持病があることに対してショックを感じたことはなく、両親も特別視することはなかった。

手術を受けたのは、0歳と1歳半の頃。健常者とほぼ変わらない生活を送れるようになったが、運動制限はあった。

「野球のクラブチームに入れないなど、やりたいことに限ってできないのが一番辛かったです」

軽いスポーツはできたが、一般的に嫌がられやすいマラソンなどは見学。同級生から羨ましがられ、心が苦しくなったこともある。

「中途半端にできたので、辛いことだけやらないように見えたと思います」

中学生の頃からは毎年、新学期に教壇に立ち、クラスメイトに持病の説明をした。背中に衝撃を受けることが危険だったため、自分と他人の両方を守るための対策だった。

しかし、病気を理由に、いじめを受けたことはある。耐えかねたある日、新村さんはいじめ相手を投げ飛ばした。

「両親は厳しく、普段はどんな理由があっても手を出してはいけないという教育方針でしたが、その時だけは『よくやった』と言ってくれた。嬉しかったです」

■初めて“やりたいスポーツ”ができた先で経験した絶望

中学では、弓道部に入った。主治医の許可も得て、初めて自分がやりたいスポーツができた。だが、中2になる頃、血管に異常が見つかり、弓道は禁止に。選手生命が絶たれ、やりたいことができない体への憤りが募った。

「心臓のことで、初めて親にキツくあたりました。これもダメなら、何がいいんだって」

そんな心を支えたのは、弓道部の部員や顧問。顧問はマネージャーという役割を与えてくれ、団体戦で賞を取った時には賞状に新村さんの名前を書き加えてくれた。

「運動会やスキー合宿で写真撮影を任せてくれる先生もいました。卒アル用の写真を任されたこともありました」

“できる役割”を与えてくれる人がいる--。その温かい配慮は学校生活を送る上で、大きな心の支えになった。

■持病を隠さず、一般雇用枠での就職にチャレンジ

人の役に立ちたい。そう想い、医者を目指した。警察官や消防士、自衛隊にも憧れたが、自分の体を考えると難しかった。医師の夢も叶わず、浪人を経験。将来を改めて考えた時、「病気を治すのは医者だけじゃない」と気づき、研究者の道を選ぶ。

大学院で学び終えた後は、病気を隠さず就活。当時は障害者手帳を持っておらず、一般雇用枠での採用を希望した。複数の会社から不採用通知があったが、隠す選択は取らなかった。

「隠したことで、相手や自分が不幸になってしまうようなことが起きたら嫌だと思ったんです」

苦労の末、新村さんは製薬会社に就職。だが、慣れない土地での新生活で体調不良に。もともと心配性だったこともあって「死への恐怖」が強まり、精神的に追い詰められた。

「4ヶ月間、休職しました。休職中、カウンセリングで学んだのは精神的にしなやかでいることの大切さ。強い1本の芯は、折れた時のダメージが大きいから」

休職後は周囲のアドバイスを受け、障害者手帳を取得。実は新村さん、支給基準は満たしていたが、障害者支援が手薄だった幼少期に医師から告げられた、「手帳を持つのはデメリットのほうが多い」という言葉が頭に残っており、取得をしていなかった。

「でも、調べて見たら制度は変わっていました。勘違いしていた点も多くあり、きちんと調べもしないで手帳の取得を避けていたことを反省しました」

■持病がある自分“だからこそ”できることも多いと思えるようになって…

「卒アルの写真撮影もそうですが、この体に生まれたからこそできたことだって多い。持病があったからこそ出会えた人もいます」

「できない」を経験し尽くした新村さんは、いつしかそう思えるようになり、“だからこそ思考”を大切にするようになった。周囲から配慮を受けた時には当然と思わず、感謝を忘れない。でも、媚びたり卑屈になったりはしない。このバランスも、心がけていることだ。

見た目からは分からない内部障害は、理解が難しい。だが、事情や気持ちを一旦、受け止めてもらえるだけでも心は軽くなると新村さんは話す。

「自分が抱えている困りごとをないものとせず、一度話を聞いた上で受け入れを検討してもらえるだけでも嬉しいです」

就労の悩みを抱える障害者に向け、新村さんは自助努力の大切さを訴える。そう思うようになったきっかけは、ネットニュースのコメント欄に書かれていた「色んな病気すべてに配慮はできない」という健常者の声を見たことだった。

「ドキっとしました。自分だって他の病気の方への配慮は分からないよなって。周囲に頼り切るのではなく、自分の状態やできること・できないことを伝えて“助けられ上手”になる自助努力が大事だと気づきました」

■「同じ病気の仲間を助けたい」 先天性心疾患向けのイベント運営に携わって

新村さんは、先天性心疾患者の就労問題を考えるイベント「プラス・ハート・カフェ」の運営に携わっている。学生を対象にしたこのイベントでは、自分のトリセツを作って強みを見つけたり、当事者の就労体験談を聞いたりして働き方を具体的に考えることができる。

「こんなイベントが、中高生時代にあってほしかった。かつて、先天性心疾患者は生きることで精一杯だったけれど、医学が進歩し、大人の先天性心疾患者が増えている今は“どう生きるか”の考える時代に来ていると思うんです」

2026年3月28日(土)に第2回目を開催予定。今回は企業講演が聞け、模擬面接という形で自分の強みを伝える練習もできるそうだ。

自分だからこそ、健常者と障害者の橋渡し役になれるはず。そう話す新村さんの生き方は、同じように悩む誰かの背中を優しく押すことだろう。

(愛玩動物飼養管理士・古川 諭香)

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