「おじいさん、どこ行った?」身勝手な人間の事情で、置き去りにされた10匹の猫たち
「おじいさんが退去して、10匹くらいの猫が置き去りになっていると相談がありました」
そんな書き出しから始まるInstagramの投稿が、多くの人の胸を打った。投稿したのは、名古屋を拠点に保護猫活動を続ける「ねころび」(@nekorobi_m)さんだ。
現場は、名古屋市中村区にある古いアパート。そこでは、人が去ったあとも、行き場を失った猫たちが取り残されていた。
「これは遠くで起きている他人事ではない。きっと知らないだけで、いろんな場所で起きている出来事だと思います」
ねころびさんに、相談を受けた経緯や、現場で見た猫たちの姿、そして今後の対応について詳しく話を聞いた。
■「置き去りにされた猫がいる」一本のDMから始まった
相談が届いたのは12月4日。フォロワーから、切実なDMが寄せられた。
古いアパートで、半外飼いにされていた猫が少なくとも10匹。世話をしていた高齢の男性が退去し、3日間姿を見せていない。洗濯機は撤去され、ガスメーターには停止の紙。間違いなく、住人はいなくなっていた。
「居ても立ってもいられなくて、その日の夜にすぐ現場へ向かいました」
到着すると、か細い鳴き声が聞こえてきた。助けを求めるように鳴く、痩せた子猫だった。
「抱き上げると、ゴロゴロ喉を鳴らして甘えてきたんです。とても人懐っこくて……寂しかったんだなと思いました」
■白血病陽性…ショックと、それでも続くケア
保護した子猫を検査すると、猫白血病ウイルス(FeLV)陽性。ねころびさんは、その時の気持ちをこう語る。
「嫌な予感はしていましたが、やはりショックでした。あんなに人懐っこい子だったので…」
現在は再検査までの間、インターフェロン投与と栄養価の高い食事で免疫力を高めるケアを続けているという。
■部屋を見上げ、前で待ち続ける猫たち
男性が退去したあと、アパートの部屋には何も残されていなかった。窓は開いたまま。かつてごはんと水が置かれていた器は、伏せられたままだ。
「猫たちは、部屋の前で待っていたり、誰もいない部屋を見上げていたりしました」
人の事情を理解できない猫たちは、ただ“帰る場所”を待ち続けていた。
■なぜ猫たちは置き去りにされたのか
近隣住民の話によると、アパートは売却され、買い手がついたため立ち退きが決まったという。大家は外猫への餌やりに否定的で、男性はこっそり世話をしていた可能性が高い。
「おじいさんも、猫を置いて行きたくて置いて行ったわけではないと思います。でも、退去前にどこかへ相談できていたら…と思わずにはいられません」
30年以上前から猫が多い地域。早い段階でTNR(捕獲・不妊去勢・元の場所へ戻す)が進んでいれば、結果は違ったかもしれない。
■8匹を一時保護、それでも過酷な現実
現在、ねころびさんは8匹の猫を一時保護し、不妊手術を実施。しかし状態は厳しい。
白血病、猫エイズとのダブルキャリア、扁平上皮癌で顎の大部分を失っている猫--8匹中、陰性だったのはわずか2匹だった。
「外で生きるにはあまりにも過酷です。リターンするのが辛くて…」
状態の悪い猫やウイルス陽性の猫は保護を継続。残りの猫たちも、これ以上増えないようTNRを進めている。
■「振り回されるのは、いつも物言えぬ動物たち」
投稿には、多くの共感の声が寄せられた。
「社会問題だと思う」
「これは他人事じゃない」
「不動産業でも同じケースを見てきた」
ねころびさんは、最後にこう語る。
「これは特別な話ではありません。知らないだけで、同じことがあちこちで起きています。振り回されるのは、いつも声を上げられない動物たちです」
人の都合で生まれ、人の事情で取り残される命。その現実を、私たちはどれだけ“自分事”として考えられているだろうか。
(まいどなニュース特約・渡辺 晴子)





