“謎の気球”ここ数年飛来し続けていたのに…「なぜ今、危険と判断されたの?」 政府見解に豊田真由子が感じる懸念点

「偵察用気球の飛来」が、安全保障上の問題になっています。今回、政府の見解等を巡り、いろいろとモヤモヤしてしまったので、下記の点について、考えてみました。

①防衛大臣が、「気球の撃墜の可能性を排除しない」という考えを示した一方で、与党や政府内から「実際は、ルール上難しい」という声が出るのは、どういうことか?

②ここ数年、我が国でも気球の飛来が話題になっていましたが、当時は「安全保障に影響はない」とされていたのは、どういうことか?

③米国でも、数年前から偵察用気球が飛来していましたが、そのときは撃墜せず、今回対応を変えたのはなぜか?

④「他国の軍用機・偵察用の気球・民間の航空機や気球」など、自国の領空内に入ってきた物体でも、その意図や危険性には大きな違いがあると思いますが、どう判断し、どう対応を変えるのか?

なお、気球の撃墜に関しては、技術的問題(気球は高度が高く速度が遅く、空対空ミサイル等が必要で撃墜は容易ではない、かなりのコストがかかる等)も指摘されていますが、それについては本稿では触れません。

■「撃墜は、法的には可能だが、ルール上は難しい」の意味

▽問題点

浜田防衛大臣は、気球の撃墜の可能性について問われた際、「国民の生命及び財産などを守るために必要と認める場合には、所要の措置を取ることが可能」と説明しましたが、与党や政府内からは、「撃墜は、ルール上難しい」という声が上がりました。

私は「法律の条文と組織のトップである大臣が可能としているのに、ルール上できない、とは一体どういうこと?」と疑問を持ちました。法令には、厳格な上位下位(憲法-法律-政令-省令・規則、など)があり、下位法令は、上位法令と矛盾する内容は定められない、というのが大原則ですし、また、これに限らず、安全保障上の重大事の発生時に、「法律上はできるけど、実務上は認められない、現場は動けない」では、いざというときに、国民の生命や財産を守ることはできませんし、現場の自衛官にも、多大な困惑と負荷をかけてしまうと思われたからです。

これについては、「法律(自衛隊法)には、細かい要件は書かれていないが、具体的な手順を定めた自衛隊のルールで、領空侵犯に対して武器を使用できるケースが、極めて限定的とされている」ということでした。であるならば、「法的には可能」と言うのではなく、そこまでちゃんと、国民に対して説明すべきだったのではないかと思います。

▽具体的にはどういうこと?

領空侵犯に対する措置(自衛隊法84条)で、防衛大臣は「外国の航空機(※国際法上、気球は航空機に含まれるとされています。)が、国際法規又は航空法等の規定に違反して、我が国の領域の上空に侵入したときは、自衛隊の部隊に対し、これを着陸させ、又は我が国の領域の上空から退去させるため必要な措置を講じさせることができる。」とされています。

そして、領空侵犯に対する「武器使用」については、日本政府は従来、国際法上認められる範囲内で行われるものであり、また、その際の武器の使用は、同条に規定する「必要な措置」として、「正当防衛」又は「緊急避難」の要件に該当する場合にのみ許される、としています。

こうした要件については、法律には書かれておらず、国会答弁や質問主意書に対する政府答弁書等でそう述べられています。(具体的ルールを定めた実際の自衛隊の規則は、安全保障上の理由から公表されていませんが、それは仕方ないことだと思います。)

具体的な状況としては、例えば、自衛隊機に対して、領空侵犯機が実力をもって抵抗してくる場合(正当防衛)や、地上にいる人々の生命や財産等に重大な危難が生じ得る場合(緊急避難)に限って、武器の使用が認められる、ということになります。

とするならば、今回の気球は非武装で無人ですから、「自衛隊機に対して実力をもって、抵抗してくる」ということはなく、上空を飛行している限りは、「地上の人々に危難が生じるおそれ」も基本的にはないということになります。(気球に故障等が生じ、人口密集地などへの墜落が予想されるような場合には、緊急避難に該当する場合もあると思います。)

こうしたことから、我が国の現行ルール上、単に上空を飛行している無人の気球を撃墜することは難しく、したがって、今回、ルールを変更する方向で検討が行われることになった、ということになります。

なお、「攻撃してこないことが明らかな物体を、撃墜すべきかどうか」は、議論があるところだと思いますし、米国が撃墜したから日本も、という単純な話ではないとは思いますが、いずれにしても、いざというときに対応できる仕組みにしておくことは、必要なのだろうと思います。

■なぜ、今回対応を変えたのか?

▽なぜ今回、米国は撃墜という対応をしたのか?

2月8日、米国防総省は、気球がトランプ政権時代にも米本土の上空を飛行し、また、中南米、東南アジア、東アジア、ヨーロッパといった少なくとも5大陸を飛来したと発表し、国務省は、今回の気球に関する情報を、数十か国の同盟国と共有したと述べました。

米国はこれまでは撃墜しなかったものを、今回はしたということになりますが、それはなぜでしょうか?

そこには、中国の台頭と米中関係の緊張の高まりがあると思います。中国が、経済力と軍事力を増強させ、世界の大国となっていく中、一帯一路などで覇権を強化し、南シナ海での領土問題に見られるような国際法と他国の主権を侵害する行動を取り、国際秩序維持の基本的ルールを軽視していることに対して、そうした横暴は許さないという断固とした姿勢を示し、牽制をした、ということだと考えます。

なお、偵察用気球の目的は、軍事情報の収集と言われますが、諜報活動(スパイ活動)は、米国はじめ各国が行っていることではありますが、こんなあからさまで大胆な主権を害する国際法違反のやり方で行うのは、さすがに看過できないということでしょう。

▽日本は、3年前は「安全保障に影響はない」としていたが?

防衛省は、2月14日、米軍が撃墜した中国の気球について米国から寄せられた情報を総合的に分析した結果、「2019年11月、2020年6月、2021年9月のものを含め、過去に日本の領空内で確認された気球型の飛行物体について、中国が飛行させた無人偵察用気球であると強く推定される、と判断した」と発表しました。

2020年当時、河野防衛大臣は、宮城県で確認された気球について「安全保障に影響はない」と発言していました。これについて松野官房長官は、2月15日、「国民の生命や財産に直ちに危険が及ぶような事象は確認されなかったことを受けてのもの」と説明しました。

これらを踏まえると、当時は日本政府として、「中国の偵察用気球だということは分からなかった」が、「国民の生命や財産に直ちに危険はないと判断した」ということになりますが、では「一体、何であると分析していたのか」「何であるかは分からないのに、危険はないと判断した根拠は何か」が、気になるところではあります。

さらに、同じ「気球」について「以前は危険ではないと判断したが、今は危険と判断する」という変更についての合理的な説明が必要になるだろうとは思います。

■なんでも撃墜してよいということではない

もちろん、領空侵犯をされたら、なんでもかんでも撃墜してよい、ということではありません。

一口に「領空侵犯」と言っても、

① 他国の軍用機が、攻撃の意図を持って、領空に入ってきた場合

② 他国の偵察用気球が、情報収集目的で、領空に入ってきた場合

③ 他国の民間の航空機や気球が、故障や気象の関係等で、意図せず、領空に入ってきてしまった場合

…など、「何が、どういう意図を持って、領空に入ってきたのか」によって、対応は変わってきます。

①は、まさに領空侵犯による国民の生命財産への危険という状況で、現行の撃墜の要件を満たし、②は、政府として今回ルール変更をするとされている場面です。

そして③については、1983年の大韓航空機撃墜事件で、ソ連軍機がアメリカ軍機と間違え民間機を撃墜したことが国際的な非難を浴び、1984年に国際民間航空条約の改正議定書が採択されました。

・人道上の基本的な考慮から、民間航空機内における人の安全及び生命が確保されなければならない。

・各国は民間航空機に対して武器の使用に訴えることを差し控えなければならない。

そして、

・各国が領空を飛行する不審な航空機に対しての強制着陸指示等の権利

・民間航空機は、その指示に従うことの義務

が確認されています。

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国際社会において、平和的外交的な努力をすることはもちろん重要です。ただ、相手が、国際法を順守しない横暴な行動を取ってきた場合に、それを甘受・看過することは、国益と国際秩序の維持に反し、更なる危険の惹起につながるおそれもあります。

したがって、安全保障環境の変化に応じて、いざというときに対応できる準備(今回でいえば、法的整備と技術的な対応力の強化)をすること、そして、国民に対するしっかりとした説明を行うことが、必要なのだと思います。

◆豊田 真由子 1974年生まれ、千葉県船橋市出身。東京大学法学部を卒業後、厚生労働省に入省。ハーバード大学大学院へ国費留学、理学修士号(公衆衛生学)を取得。 医療、介護、福祉、保育、戦没者援護等、幅広い政策立案を担当し、金融庁にも出向。2009年、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官として、新型インフルエンザパンデミックにWHOとともに対処した。衆議院議員2期、文部科学大臣政務官、オリンピック・パラリンピック大臣政務官などを務めた。

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