深海魚メヒカリを「メジャーにしたい」愛知の水産加工会社社長の挑戦 栄養価高く、学校給食に採用増加

 深海魚のメヒカリは栄養価が高く、味も良いところから近年、学校給食にするところが増えている。愛知県豊橋市にある水産加工会社「まんてん.」は、そんなメヒカリをさらにメジャーにしたいとユニークな商品を次々と開発し、注目されている。「日本一のメヒカリ屋」を目指して奮闘中の黒田孝弘社長を取材した。

■深海魚メヒカリの味や栄養価に魅せられ、製品に

 「メヒカリ(目光)」は、光に反射して目が光って見えるところからその名がついたという。正式名は「アオメエソ」。太平洋沖で獲れる深海魚で、水深約200~400メートルに生息していて、底引き網漁法で水揚げされることが多い。なかでも愛知県蒲郡市は日本有数の産地で年間水揚げ約1000トンを誇り、地元ではよく食べられているそうだ。

 ところが、意外なことに同じ愛知県でも隣接の豊橋市で生まれ育った黒田社長は、その存在すら知らなかったという。

 「隣町の市場の仲買人が飛び込み営業に来て、初めて知りました」

 「(有)まんてん.」を創業したのは2004年のこと。それまでは冷凍食品の卸問屋に勤めていた。独立後はイカの加工品を製造販売していたが、メヒカリとの運命的な出会いが黒田社長の人生を一転させた。

 「味は淡白ですが、美味で、カルシウムが豊富。栄養価が高く、成長期のお子様やダイエット中の人にもおすすめ。私自身がハマってしまいました」

 どうしてもメヒカリのことが頭から離れなくなり、この魚に特化した商品に全力投球。2007年から唐揚げとフライの製造販売に乗り出した。

■小・中学校の学校給食にも登場の唐揚げやフライ

 現在、メヒカリの販売先の9割は学校給食用だという。栄養面や味の点でも学校給食にふさわしいと認められたのだ。範囲は広く、関東方面から関西方面までの小・中学校に唐揚げとフライを提供。愛知県に至ってはメヒカリを使った給食の、なんと8割がこの会社のものだ。

 ただ、一般的にはなじみのない魚。給食でメヒカリが出されると「おいしい」と子どもたちにはウケはいいものの、実物を見たことがないから、どうもピンと来ていない。黒田社長もこの点を残念がる。

 「ほとんどの人がメヒカリを知らないので、説明するには見た目がシシャモに似ていて、白身魚で味は淡白。なのに、マグロの中トロぐらいの脂が乗っているとか、健康にもいいオメガ3が豊富で…というように、一から説明が必要な魚なんです」

 そこで、黒田社長は普及活動にも尽力。忙しい合間を縫ってここ十数年、出前授業をしたり、イベントに参加しては「メヒカリの良さ」を丁寧に説明してきた。

■魚醤などメヒカリ商品の開発にも尽力

 2017年には腐りやすいメヒカリを安心して持ち歩きでき、お土産にもなる商品の開発を考えた。それがオイルサーデンをヒントに生まれた「メヒカリ油漬け」(缶詰800円税込)だ。全国初というメヒカリの缶詰は発売すると「オイルサーデンにひけをとらないぐらいにおいしい」と評判になった。

 そんな時に、蒲郡市内にある県立三谷(みや)水産高校から「メヒカリのアラで魚醤を作りたい」という話が舞い込んだ。魚醤とは、魚などを発酵させて作る液体状の調味料のこと。アラを有効活用することはSDGsにもつながると考え、高校生たちと一緒に商品づくり没頭し、2018年にメヒカリ魚醤「深輝」(540円税込)を誕生させた。

 その後は魚醤を応用。ぽん酢やドレッシング、サイダーの開発に結びついていったという。黒田社長の夢は「日本一のメヒカリ屋」になること。そのためにはユニークな商品を開発して話題を呼び、一人でも多くの人に知ってもらうことが重要と考えている。

 「サイダーもその1つです。メヒカリのサイダーは話のタネにも味わってほしい」

 どこまでも前向きな黒田社長。これから旬を迎えるそうで、現在はメヒカリを年間100トンほど加工する。今後については「アゴダシがブームになりましたが、メヒカリのダシも開発してブームにしたい。またメヒカリパウダーを開発して、洋菓子などいろいろな料理に使ってほしい」と意気込んでいる。どうやら頭の中は今日もメヒカリでいっぱいのようだ。

(まいどなニュース特約・八木 純子)

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