「どうしてこの子が殺処分だったのか…」 殺処分寸前からみんなを笑顔にするセラピー犬に成長

 現在、千葉に住む山ノ上さんのお宅には、2匹のわんこがいます。どちらも保護犬で鈴(りん)ちゃん(11歳)と風愛(ふあ)ちゃん(5歳)です。特に鈴ちゃんは、殺処分ブースで震えていた子。そんな鈴ちゃんとの出会いは「奇跡だった」と、山ノ上さんは振り返ります。

■この子は人を咬むようになる…譲渡しても戻されるから殺処分に

 鈴ちゃんは野犬として捕獲され、人の姿を見ると食事も排せつもできず、怯えるだけだったそうです。そんな姿を見て、先入観だけで殺処分と判断された子犬。しかし、保護活動のボランティアをしていた保護主さんが根気よく、説得し、引き取った希なケースと言えるでしょう。

 当時、大阪に住んでいて、預かりボランティアをしていた山ノ上夫妻。預かっていた犬の里親が決まったタイミングで、保護主さんの家で、鈴ちゃんと出会いました。

 「人に懐かないという話を聞いていましたが、初めて会ったとき、身を委ね、私の手からおやつも食べたんですよ」

 このとき、やはり保護犬だった先住犬の風(ふう)ちゃんがいましたが、初対面はお互いじっとしていたそうです。そして、2011年1月、正式に山ノ上家の子となり、鈴と名付けられました。

■初日からよく遊び甘える子…しかし、外の騒音は苦手

 家に来てすぐに自分のベッドでひと眠り。そのあとはおもちゃで遊び始めるなど、聞いていた話とは全然違う様子に山ノ上さんも驚きました。

 「風ちゃんは家に来て心を開くまで3週間かかったのに、鈴ちゃんはすぐに遊ぶし、添い寝もしてくれるし、どうしてこの子が殺処分だったのか分かりませんでした」

 しかし、しばらくして屋外に出てみると、鈴ちゃんのトラウマを発見することになります。車の騒音や人の騒ぐ声などに怯え、脱糞してしまうのです。100メートル程先の交差点に出ることもできませんでした。

■本当は人に優しい子…苦手から守ってセラピー犬に

 そんな鈴ちゃんでしたが、河川敷の散歩ではしっぽがピーンと上がり、イキイキとすることが分かりました。そこで、自然の多い場所に積極的に出かけ、鈴ちゃんの楽しいことをいっぱい増やしていきました。

 2014年には、千葉に引っ越すことになった山ノ上家。幸い、千葉には自然豊かで広いドッグラン施設もたくさんあり、まさに鈴ちゃんにとってはパラダイスでした。そのとき、山ノ上さんに、あるアイデアが浮かびます。

 「そのころ、風ちゃんはセラピー犬として活動していたのですが、高齢となり引退を決意。そこで鈴ちゃんを後継者にと考えました。大きな音は苦手だけど、安心できる環境なら本来の人に寄り添い、なでられるアニマルセラピー活動ができるのではないかとトライしてみたんです」

 一部ではビビリ犬にはできるわけがないという意見もありましたが、苦手なことから守りさえすれば、そんな心配は無用でした。鈴ちゃんは老人ホームでしっかりとみなさんを楽しませました。

■みんなを笑顔に…新入り風愛ちゃんの良きお姉ちゃんとしても

 鈴ちゃんが5歳のとき、先住犬の風ちゃんが14歳で亡くなり、悲しい思いをしましたが、5カ月後、山ノ上家ではやはり保護犬の風愛ちゃんを迎え入れました。鈴ちゃんは、まだ子犬だった風愛ちゃんの良きお姉さんとして面倒をみてくれました。

 「今、鈴ちゃんも11歳になりました。いまや、セラピー犬として小学校などにも訪問し、子供たちを笑顔にし、感謝のお手紙をいただいたりします。そんな幸せを私たちにくれた鈴ちゃんにこれからも元気に長生きしてほしいです」

 殺処分寸前から多くの人々を笑顔にするセラピー犬に。鈴ちゃんは山ノ上さんとの出会いで大きく運命が変わった奇跡のわんこと言えるでしょう。

(まいどなニュース特約・山中 羊子s)

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