コロナで厳戒…2021年中学入試を総括 志望校絞りハイレベルな“争い”に 大学入学共通テストを意識した出題も 

コロナ禍の中学入試が終わりました。首都圏では埼玉県の中学入試が始まる直前の1月7日に、新型コロナウィルスの感染拡大に伴い東京など1都3県(神奈川県・埼玉県・千葉県)に緊急事態宣言が再発令…教育現場でも感染防止対策に追われ、一時期緊張が走りました。最終的には、多くの試験会場で徹底した新型コロナウィルスの感染防止対策がとられるなど、大きな混乱は見られなかったようです。そんなコロナ禍の入試を経験した受験生の保護者や塾経営者に2021年の中学入試を振り返ってもらいました。

■「第一志望校に受かりたい」…強い気持ちで乗り切った

まずは、神奈川県に住む小学6年生を持つ保護者。お子さんは、第一志望の神奈川県内の中学校を含め計5校を受験しました。コロナ感染を恐れて県境を越えた受験を控えるご家庭もいる中、1月は入試に慣れるためにと埼玉県内の学校も受験して見事合格。そして、2月1日には第一志望校の受験を迎えたといいます。

受験当日について「5時45分に起床。会場までは電車を利用し、集合時間の45分くらい前の学校到着を目指して、7時15分に自宅を出ました。校内入場の際には、検温と消毒はもちろんのこと、例年だと受験会場の教室に35人入るところ、今年は20人に減らすなど、感染防止対策も徹底していたようです。また、私は保護者控室の密を避けるため、一旦帰宅して待機しました」と保護者。

さらに、「合格発表は入試当日の夜、Web上でした。子どもが見たのですが、『合格』の文字を目にした瞬間、大喜び。私も本当にうれしかったです。

振り返ると、大変だった時期もありました…入試が始まる当初はほとんどの志望校で、受験日にコロナ陽性の場合、受験不可、かつ、追試もなしという方針だったため、小学校を1月中旬から2月入試日までお休み。そこで子どもの生活が、自宅での自習と塾のみになってしまい、気分転換やリフレッシュすることが難しく、精神的に良くない状態になりました。

特に、受験直前の大事な1週間前は勉強に疲れた様子で、早く受験を終わらせて学校へ行きたいともらすなどそばで見守っていた親としてもとても心苦しかったです。でも、そんな辛い思いをしながらも子どもは第一志望に受かりたいという強い気持ちで頑張ってくれたと思います」と話してくれました。

■受検直後は自信をなくしていたが…HPで番号を見つけて泣き出す

続いて、公立中高一貫校の合格を目指した6年生の保護者。2月から入試が始まり、私立2校と第一志望の公立中高一貫校の計3校をお子さんは受けたそうです。保護者によると、第一志望の公立中高一貫校を受ける前日は、公立と同じ適性検査型の入試を実施する私立校を練習で受験させたとのこと。

そして、第一志望校の受検当日は「5時に起床。公共交通機関を避けるため会場の近くまで車で行き、10分少々歩いて試験会場入り。保護者は近くのファミレスなどで待機していました」といいます。合格発表日を迎えて「ホームページで確認。子どもは受検番号を見つけると安心して泣き出してしまいました。受けた直後は想像以上に難しく、自分が良くできたのかできていないのかも分からず、自信をなくしていたようでしたが…合格して喜びもひとしおでした」と保護者。

また、コロナ禍の学校選びについて「学校見学が思うようにできなかったことが残念ではありましたが、逆にオンライン説明会に切り替わったことで各学校の校風についてはよく分かり、学校選びの際に参考になりました」といい、「もし第一志望に合格していなくても、子ども自身はやり切ったような印象だったので悔いはなかったと思います」と振り返ります。

   ◇   ◇

それぞれの受験を終えたご家庭では、思った以上に辛かったり、戸惑ったりした時期を経験しながらもコロナ禍の受験を乗り越えたお子さんの成長を感じられたようです。東京・横浜を拠点に中学受験専門の家庭教師センター「アクセス」や個別指導塾などを経営する榎本勝仁さんに2021年の中学入試を振り返ってもらいました。

■2月入試の合否のかぎは、1月入試結果の分析だった? 

--今回、先生が直接ご指導されている個別指導塾「早稲田教育スクール」(渋谷区)では埼玉入試において、当日の移動距離を極力減らすため、埼玉入試が集中する1月9日から3泊4日間、さいたま市内のホテルで保護者も含めて受験生の実践強化合宿を実施されたそうですね。1月入試はいかがでしたか?

榎本さん:「首都圏では感染リスク回避のため、都県境を越えての受験を避けたご家庭も多く見受けられましたが、当塾では埼玉や千葉などの1月入試にチャレンジ。1月に出される問題に触れることや入試に慣れるという意味でも1月入試は重要です。

特に埼玉入試。開智中や栄東中など埼玉の学校の中には点数を開示する学校があります。合格だったらどこのポジションで受かっているか。不合格だったら、どこがダメで落ちたのかということが分かります。例えば、受かったのだけれども、実は算数が半分くらいしかできていなかったなど…ウィークポイントを知ることができるのです。だから、当塾ではしっかりと1月入試結果を分析して、次の東京や神奈川入試が始まる2月入試に臨ませたため、多くの生徒が合格を勝ち取ることができました」

--確かに、1月入試結果の分析は直近の実力が把握でき、点数が開示されれば弱点も見つけられますから有効ですね。また、首都圏ではないですが、1月入試のラサール中(鹿児島市)で出た国語の出典が2月入試の学校でも重なったと伺いましたが。

榎本さん:「はい。説明的文章は新書から問題文を選ぶことが多いのですが、今回出題されたのは、静岡大教授で植物学者の稲垣栄洋(ひでひろ)さんが著書の『はずれ者が進化をつくる --生き物をめぐる個性の秘密 』(筑摩書房)です。余談ですが、実は中高時代の同級生なんです。だからというわけではありませんが、稲垣さんの著書は入試でこれまでも頻出しています。

昨年の入試でも前年に出版した『生き物の死にざま』(草思社)から出題されました。昨年も稲垣さんの新刊が出たので間違いなく今年どこかの学校で出るだろうなと予想していました。その予想は的中してラサール中だけではなく、桜蔭中、桐光学園中、大妻中、鴎友学園女子中、明大中野中などでも『はずれ者が進化をつくる』から出題。もともと生徒たちには1冊ずつ配って読ませるなど対策をしていましたが、ラサール中で出た入試問題も解かせて2月入試を迎えることができました」

■合格した受験生の勝因は…コロナ禍における勉強の時間量と過去問演習

--コロナ禍といえども、1月入試に臨んでしっかりと結果を分析するかしないかが、2月入試の結果を左右したのかもしれませんね。このほか、今年合格した受験生の勝因というと考えられるのは何でしょうか?

榎本さん:「1つは、勉強の時間量です。以前もお話ししましたが、昨年春の緊急事態宣言中、たくさんの時間がありました。もちろん、学校の勉強も両立しながらですが、その時間をどう有効に活用したかが今年の入試の合否に関わったと思います。そこで勉強を頑張った人、頑張れなかった人の二極化したようです。特に難関校以上を狙う子たちの多くは、少なくとも1日12時間くらいは勉強していたのではないでしょうか。

先日の武蔵中の塾向け入試報告会でも学校側が『例年以上に白紙答案が少なかった』と話されていて。これは、難関校以上を目指していた子たちはそれなりに勉強をされて入試に臨んだという表われですね。同時にコロナ禍の今年は併願校数を減らして志望校を絞り込んで受けた傾向もあり、各志望校の対策をかなりされていたようです。

また、受験校の過去問演習を早くから着手して2倍、3倍の量をやった子が第一志望から合格をもらえたと思います」

■大学入学共通テストを意識、思考力を試す出題が増えてきた中学入試

--続いて、今年の中学入試の傾向で感じられたことをお聞かせください。

榎本さん:「大学入学共通テストを意識してなのか、受験生の思考力を試す問題が難関校以上にいくつか見受けられました。今年の入試からスタートした大学入学共通テストは知識だけでは歯が立たない問題を増やし、思考力を重視するような問題形式となったわけですが、中学入試でもそのことを意識した問題が見られたということです。

開成中や灘中、桜蔭中、豊島岡女子学園中など最難関校を中心に算数において思考力を問う問題が多かった印象がありますが、特に驚いたのは“千葉御三家”の1つと呼ばれる市川中の国語です。

それは、大問1の説明的文章と大問2の物語文それぞれの文章を踏まえ説明しなさいという記述問題が大問3で出題されました。一見、別個の問題と思いきや、各文章を関連付けさせて答えさせるという…両方の内容の趣旨が分からないと、この問題は答えられません。要するに、盛りだくさんの情報を読みこなしながら物事を深く考えるという、明らかに思考力を試す問題でした。今回の共通テストを見ても各大問文章が2つ出ていました」

--なるほど。学校側のメッセージとも受け止められるような出題ですね。これからは知識の詰め込みだけではダメだよ、自分でしっかりと考えて解いてねと。

榎本さん:「そうです。特に難関校以上は、これまでの塾のテキスト一辺倒の勉強の仕方では太刀打ちできません。今後も、普通のテキストにないレベルの問題が出てくると思います。思考力はもちろんのこと、その基礎となる読み解く力も必要です。国語だけではなく算数や社会、理科に関しても長い問題文を読ませてから、解かせる問題が増えています。今年の入試は、ベースに読解力が必須だということをあらためて感じました」

--最後に、コロナ禍における中学受験について総括してください。

榎本さん:「例年よりも私たち塾側も受験生側も2倍、3倍疲弊する状況でした。通っている塾は一時期休みになって課題を出されるだけ、大手塾などが行う模試も一時期ありませんでしたし。また現地での学校説明会はなくなり、1月入試が始まる直前に緊急事態宣言が再び出るなど入試自体もできないんじゃないかと思う場面もありました。

今年の受験生にとって厳しい局面がいくつもあったかと感じますが、ここで乗り越えた経験はきっと今後の長い人生でいかせるはずです。何よりもコロナ禍の中学入試が無事に終えたことに受験に関わった皆さんに深く感謝して終わりたいと思います」

(まいどなニュース特約・渡辺 晴子)

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