中学受験の天王山なのに…コロナで短くなった「夏休み」 学校と塾の勉強の両立は大丈夫? 専門家に聞いた

コロナ禍で初めての夏休みがやってくる-。夏休みは、来年の中学受験を目指し、日夜勉強に励む小学6年生の子どもたちにとって総復習に取り組むための大切な時期。しかし今年の夏休みは短く、受験勉強に費やすまとまった時間が十分に取れるかどうか、あるいは、学校と塾の両立で子どもたちの体力や気力が続くかどうか…といった保護者の間で不安な声が広がっています。そんな不安を少しでも払拭していただこうと、首都圏で延べ3000人以上の子どもたちを指導してきたというプロ家庭教師と、中学受験専門メンタルトレーニングコーチのお二人にコロナ禍で受験勉強を乗り越えるための“対策”や“心構え”についてお伺いしました。

今年は新型コロナウィルス感染の流行で、小学校も数カ月にわたる長い休校となりました。そこで各学校は学習時間を確保するため、夏休みは通常よりも短く設定されているところが大半です。

例えば、7月末までは登校。夏休み期間を8月1日から17日までとして、8月18日から学校が始まるといったスケジュールを取るところも。地域や学校によって違いはありますが、どの学校もお盆休みを中心に前後含めて夏休み期間を確保しているようです。

これまで夏休みというと、ほとんどの学校では7月20日前後から8月下旬ごろまでの長期休暇のことを指します。中学受験塾も夏期講習を設け、受験学年の6年生は朝から夕方まで連日授業を行うものでしたが、今年の夏はそうはいきません。実際、首都圏のSAPIXや早稲田アカデミーなど大手塾の多くは、学校がある平日も夕方から夜にかけて夏期講習の授業を組み込んでいるといいます。学校が終わってから夜まで塾の授業。ほとんどの受験生は、短い夏休み期間以外は帰宅後に学校の宿題と塾の復習などに追われる日々を送ることになるでしょう。

従来の夏とは違ったスケジュールとなるので、保護者の間でも学習面をはじめ、体調管理やモチベーションなどを懸念する声が出ているようです。例えば、ある保護者からは「夏は学校で授業を受けた後、塾で夜遅くまで勉強。連日続くとなると、子どもの気力や体力が続くか心配です」と、お子さんの体調管理に不安の声が上がっています。

また、5年生のときに塾の夏期合宿に参加して成績アップにつながったという、女の子を持つ保護者は「昨年初めて夏の合宿に参加し同じ学校を目指す多くの仲間と過ごしたおかげで、娘もモチベーションがアップしました。秋以降は成績も伸びて合宿の成果を実感。でも今年はコロナで合宿が中止となり、モチベーションアップの大切な機会を奪われてしまった」とショックを隠せない様子。今回は夏の合宿の代わりに行われるセミナーに参加されるそうで「塾の本部で4日間のセミナーが通塾の形でありますが、昨年同様の成果が得られるかどうか…それに通勤の時間帯に娘は電車に乗るのでコロナ感染のリスクも心配です」などと、さまざまな不安を漏らしています。

■短時間で効率よく勉強量をこなす方法とは?…「心肺機能を鍛えて暗記力・計算力アップ!」

確かに、保護者の方々の声などからコロナ禍における夏の受験勉強は苦戦を強いられそうな印象はありますが、「工夫次第で乗り越えられるはず」というのは元大手受験塾講師でプロ家庭教師の牧静(まき・しず)さん。コロナ禍の受験勉強について次のように話しています。

「6年生の場合、夏休みから4年生から6年生の7月までの総復習に取り掛かります。今回のように短期の休みとなると、平日昼間は学校の授業と両立をしながら夜は塾に通わなければならない。ですので、どう勉強時間を増やしていくかという発想では太刀打ちできません。そもそも中学受験“時間短縮競争”だと思っていますから、いかに短時間で効率よく勉強量をこなすことが大きなカギです」

では、短時間で効率よく勉強量をこなすために受験生が行うべく効果的なこととは…牧さんいわく「意外だと思われるかもしれませんが、運動をすることです。逆に運動を全くしないで心肺機能が弱ってくると、暗記力や計算力が落ちてくるといいます。だから、身体を動かす時間を作った方がかえって勉強の効率も上がるんです。特に、走ることをおすすめします。足は『第2の心臓』とも呼ばれていますから、走ることで足の裏を刺激すると脳の活性化につながるともいわれています。ただ、暑い夏の間は、朝方に散歩するだけでも結構です」とのこと。

さらに、家庭学習については「50分勉強して10分休憩するなどメリハリをつけることです。収穫逓減(しゅうかくていげん)の法則というのがありまして。これは、労力を増やせば生産量は増加し、ある限界に達すると生産が伸びなくなり、次第に増加分が小さくなっていくという法則です。実は人間の脳も同じことがいえ、脳をどんなに頑張ってフル回転をしても60分くらいが限界だといわれています。ですから、50分勉強に集中したら10分脳を休ませるといったサイクルで学習を進めると効果的。10分の休憩に家の周りを走ってくるなど軽い運動を入れてもいいかもしれません。実際、勉強の合間に気分転換で外に出て走る男の子もいます」。

ただ、短時間で効率を上げて勉強ができたとしても、4年生からの総復習となると範囲が膨大。全部こなそうとしてしまうと、しんどいものになってしまいます。そこで牧さんは「勇気ある取捨選択」が必要だといいます。

「無駄な勉強に時間を費やす暇はありません。その子に合ったレベル、志望校に合ったレベルの問題をピックアップして、取り組ませることが大切です。取り組ませる際は、親御さんが勝手に判断するのではなく、塾や家庭教師の先生など受験のプロに相談することをおすすめします」

また、体調管理も大切で「夏休みは夜型になる子も結構います。特に今年は平日の夜まで塾がありますから、夜遅くまで勉強をして身体を壊さないように」などとアドバイスをいただきました。

■モチベーションを保つためには?「目標をイメージしながら志望校に足を運んでみる!」

一方、学習面だけではなく、コロナ禍の受験勉強で大変なのはモチベーションを保つこと。最近は、首都圏を中心にコロナ感染者が再び増えていることもあり、「また休校になるのではないか」「自分が感染したらどうなるの?」といった、コロナに関わる不安がモチベーションを下げる一因になっているお子さんもいるようです。

こうした厳しい環境下でもモチベーションを保つため、お子さんの中学受験経験もある中学受験専門メンタルトレーニングコーチの神西美佐(かんざい・みさ)さんにコーチングの観点から3つの心構えを挙げていただきました。

1つ目は「目標を持つこと。中学校に入って何がやりたいのか、何のために頑張るのか。目標を持ちながら志望校に合格して学校生活を楽しんでいる姿をイメージし続けてみてください」

2つ目は「体感すること。実際に志望校に足を運んでみてください。ただ、コロナで学校説明会や文化祭も軒並み中止され、オンライン説明会に切り替わっているのが現実です。実際に、行事などに参加は難しいですが、土日や平日の夕方などを使って、合格したい学校に行ってみることをおすすめします。おそらく、学校内には入れないとしても、歩いている生徒さんの様子や雰囲気を見ることは可能です。また正門辺りで学校の写真を撮って、その写真を学習机の前に張ってみてもいいでしょう。きっと気持ちも上がってくると思います」

3つ目は「最後まであきらめない心の強さを持つこと。6年生まで勉強を続けてきた皆さん、決して一人ぼっちではありません。周りを見渡すと、お父さん、お母さん、先生、兄弟やお友だちなどの支えがあったからこそ、頑張れたのではないでしょうか。心が折れそうになったとき、周りの人たちの顔を思い出してください。感謝の気持ちとともに、その人たちを喜ばせたい、そのために頑張りたいという気持ちが自然とこみ上げてくるはず。そこに最後まであきらめない心の強さが生まれます」

このようなモチベーションを保つための心構えを知ることは大切ではあります。とはいうものの、モチベーションというのは上下するもの。ときには「モチベーションに頼らないことも必要」と神西さん。「モチベーションが上がらなくても机に向かって勉強する。そんな学習習慣作りも重要です」とも話してくれました。

   ◇   ◇

中学受験のプロであるお二人にいろいろとお話を伺いましたが、最後に受験生を持つ保護者の方々に向けて牧さんからのメッセージをお伝えします。

「全てのお母さん、お父さんたちにいいたいこと。それは、中学受験というのはお子さんにとって人生の全てではありません。あくまでも通過点だということを忘れず、くれぐれもお子さんに無理強いさせないようサポートしくださいね」

(まいどなニュース特約・渡辺 晴子)

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