言葉を覚え始めたばかりだった息子は、会えないまま5歳になった「子の連れ去り」違憲性問う父の思い 

 厚生労働省の推計によれば、日本では1年間に約20万7千組(2018年)が離婚をしているとされます。前向きなものも含め離婚が決してタブーではなくなる一方で、ひとり親家庭の経済的・精神的困窮や養育費の未払い問題、さらには子どもに会えなくなり苦しむ親、親に会えず悲しむ子どもも、相次いでいます。「子どもの連れ去り」問題や、離婚後の親権、司法のあり方そのものへの批判も高まる中、2年以上息子に会えていないという、ある男性を取材しました。

■頼れる人もなく…妻はストレスと不満をため込んだ

 昨夏、首都圏に住む男性の元に離婚裁判の控訴審判決文が届いた。男性の離婚拒否の訴えは棄却された。妻が当時1歳の息子を連れて家を出たのは約3年半前。男性にも親権はあるにも関わらず、息子とは2年以上会えていない。

 妻とは旅行が縁で知り合い結婚した。待望のわが子を授かり、自然豊かな郊外に戸建てを建てた。建材にこだわり、子どもが遊べる仕掛けなど家族の夢を詰め込んだ。

 だが、産後まもなく妻は体調を崩した。男性の職場へは片道2時間弱。帰宅後や休日は家事をしたが、仕事が立て込むと帰宅が夜10時を過ぎることも。お互い実家が遠く頼れる人もなく、妻はストレスをため込んだ。「家事のやり方が違う」と怒り「私は子育てが大変で何もできない」と不満をぶつけた。男性は会社の早退制度やベビーシッターの利用も提案したが、妻は首を縦に振らない。休日にはどうにか妻の時間を作ろうと、犬と子どもを連れて散歩に出掛けた。

 それでも状況は好転せず、諍いが増えた。「自分では一生懸命頑張ったつもりだが妻には足りず、否定されるばかり」と男性。妻の母にも相談したが逆に口論になり、ある日、妻は男性が仕事に行っている間に息子を連れ出ていった。真っ暗な家には、妻が飼っていた老犬だけが残されていた。

■家裁「2カ月に1回で十分でしょう」父は最愛の孫との再会叶わず逝った

 男性は関係修復を試みたが、間もなく弁護士名で離婚調停と婚姻費用請求の申立書が郵送されてきた。妻側は「モラハラによる精神的苦痛」を主張。男性が否定すると、調停は不調となり裁判になった。男性は息子に会いたい一心で面会交流調停を申し立てたが、家庭裁判所は「婚姻費用の決定が先」と取り合わない。男性は妻に月13万円を支払うことになり、息子とは月2回の面会を求めたが妻側は拒否。家裁調査官も「2カ月に1回で十分でしょう」とにべもなく「仲直りしたい」との訴えや提案も顧みられることはなかった。

 言葉を覚え始めたばかりで可愛い盛りの息子。思いが募り、男性は数度目の面会で息子を家に連れ帰った。「息子が住んでいた元の家に戻して、何も問題ないと思った。DVも無い」。だが警察に通報され息子は妻の元に。また空っぽになった家で、丸一日床に突っ伏して泣いた。

 お互いの両親も交えた話し合いで面会は「月1回」と決まり、3回会えた。その後、転職による収入減で男性が婚姻費用の減額を申し出ると、妻側は拒否。面会もぴたりと止まった。再び調停を申し立て「2カ月に1回1時間、第三者機関を利用して面会」と審判が出たが履行されず、写真や近況が届くこともない。病気の父は最愛の孫との再会も叶わないまま他界した。

■夫婦間の対立あおるだけの司法…“子どもの奪い合い”でいいのか

 「最初は妻とも話ができていたのに、弁護士や裁判所が入ってからはお互い正当性を主張し相手を非難するしかなく、対立は深まるばかり」と男性。別居期間を理由に離婚は認められ、息子の親権・監護権も、男性の家計や家事の寄与とは関係なく、現在の子の状況を継続することを重視する「監護の継続性」から妻に。男性が「面会交流ができていない」と訴えても、男性の母が「孫に会いたい」と訴えても変わらなかった。

 「日本の司法はいわば『最初に子を連れ去って手元に置いた者勝ち』の状態。それでは子どもの奪い合いになるだけ」と男性。「親子の交流も認めず、息子は父を忘れ、教えたい事もたくさんあるのに触れ合うこともできない。裁判所は全く信じられない」

 男性は昨年2月、子の一方的な連れ去りの防止を求めた国賠訴訟の原告に名を連ねた。息子は会えないまま、もう5歳になった。成長した姿を想像しながら手紙やプレゼントを贈り、貯金も続ける。「いつかお金が必要になった時、助けてあげられるように」と男性。「でも、そもそも両親の愛を受けて育つのは『子どもの人権』のはず。親の関係が変わろうとそれを保証するのが本来の司法なのではないでしょうか」

(まいどなニュース・広畑 千春)

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