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自分で食べる肉は自分で獲る猟師という生き方 反響呼んだNHK番組がドキュメンタリー映画に

京都大学在籍中に狩猟免許を取得し、わな猟師として妻と2人の息子と京都で暮らす千松信也さん。2008年に刊行した初めての著書「ぼくは猟師になった」で注目を集め、その後の「狩猟ブーム」を牽引する存在になった。それから12年。千松さんは今も変わらず、イノシシやシカの痕跡を求めて毎日のように山を歩く。


「動物の命を取るので、あまり狩猟を『面白い』とか『楽しい』とは言わないようにしていますが、獣道の痕跡を追跡するのはドキドキするし、やっぱり…楽しいですよ」

千松さんの専門は、くくりわな猟。直径12cm以下の輪をイノシシやシカの通り道に仕掛けておき、獲物が輪の中に足を入れると、即座にバネが働いて輪が締まるという原初的なわなだ。獲物は生け捕りになるため、3カ月の猟期中は毎日の見回りが欠かせない。わなにかかっている獲物を発見すると、千松さんは棒などで叩いて失神させ、ナイフでとどめを刺す。1シーズンに家族や友人で食べる10頭ほどを獲るという。


■昔とは様変わりした「狩猟」のイメージ

多くの人にはあまり馴染みがないかもしれない狩猟の世界だが、千松さんが足を踏み入れた20年前に比べると、今は狩猟に対するイメージは様変わりしているのだという。

「ここ10年から15年くらいの間でしょうか。鳥獣被害があるからとか、生態系を守るためなど、社会的にも狩猟の必要性が認められるようになりました。それ以前は、野生動物や自然は守らなければならず、わざわざ山に入って動物を殺す猟師は“おかしな存在”だと思われていたんです。僕が猟を始めた頃が、ちょうどその過渡期でした」

「だから先輩の猟師たちはずっと激しい批判を受けていたんです。僕が最初に『狩猟の本を書く』と言ったら、『やめとけ、ぼこぼこにされるぞ』と忠告されましたから。でも僕は、猟をしていることで非難されたという経験はしていません」


2010年代になると、狩猟を題材にした漫画がヒットしたり、「狩りガール」という存在が注目されたりするように。YouTubeやSNSで狩猟のことを発信する人も増えているという。

「僕が猟師になった頃と比べると、得られる情報量は全然違います。当時、わな猟なんて調べても何もわからなくて、師匠に頼み込んで教えてもらいました。師匠についてきちんと教われば、地元の人との関係など、『そのエリアで猟をする』ということの意味を包括的に学ぶことができます。今のように情報がありすぎるというのは、逆に大変かもしれないですね。狩猟人口が増えるので歓迎できる面もあれば、いい加減な技術を“正しい技術”として発信している人もいるので、どう評価するかは正直難しいところです」

■「うっかり引き受けた」密着取材がテレビで大反響→映画に

口下手で偏屈な人が多い(千松さん談)という猟師の世界にあって、わかりやすい言葉で狩猟の魅力を発信できる千松さんは、得難い存在。そのため、テレビなどメディア出演の誘いはひっきりなしに来るという。「芸人を山で修業させてほしい」「アイドルに命の大切さを教えてほしい」といった類の依頼は全て断っているのだが、本人曰く「うっかり引き受けてしまった」のがNHKのドキュメンタリー番組「ノーナレ」。千松さんの日常に密着した「けもの道 京都いのちの森」は2018年に放送され、獲物をさばく様子も真正面から描いた内容は、NHKも驚くほどの大きな反響を呼んだ。放送後、さらに300日の追加取材を行い、再編集したドキュメンタリー映画「僕は猟師になった」が今、全国で順次公開されている。

「足掛け2年、こんなに密着されるとは思っていませんでした。最初の頃はディレクター、カメラマン、音声さんの計3人が毎日ついて来てましたね。見知らぬ人間の臭いがついたおかげで、イノシシたちはわなに全然かからなくなりました。本当に、獲物が警戒してサーッといなくなるのがわかるんですよ。ですので、撮影は何日かに1回とか、ついて来るのはカメラマンだけとかにしてもらいました。ただ、自分以外の人間がこれだけ山に入ったら獣たちがどんな反応をするのかという実験のつもりで、楽しませてもらったところもあります」

「映像で見る狩猟中の自分の姿も興味深いものがありました。自分ではもっと俊敏に動いているつもりでしたが、意外とどんくさいんだな、こんなんでイノシシと対峙して大丈夫かなとか。これから見る人が、映像からどんなことを感じてくれるのか楽しみですね」


■うんちに興奮する遺伝子を受け継ぐ男

千松さんが面白いのは、自然や動物と向き合う経験を踏まえ、「人はこうあるべき」ということを一切言わないところだ。

「実は猟師って意外とみんなそんな感じなんです。普通に生活の中に狩猟があるだけで、何かを訴えたいとか、主張したいことがあるかというと、特にない。やりたいからやっているだけなんです。そして僕はそれをとても幸せなことだと思う。やりたいことをやれば、食べ物を得られたり、燃料を得られたりする。昔は肉を販売してお金を稼ごうとしたこともありましたが、仕事みたいにするとしんどくなるんですよね。3年くらいで限界を感じてやめました。結局、無理をしないのが一番なんです」

「大事なのは、『動物の仲間に交ざりたかった』という猟を始めた頃の感覚を自分が裏切らないこと。山に入って、前日の夜にしたばかりのイノシシのピカピカのうんちを見ると、狩猟を20年やってきた今でも興奮します。僕だけじゃなくて、他の猟師もみんなそう。はるか太古にも、人間は『おお、うんち!』と同じことで喜んでいたはず。うんちに興奮する遺伝子を僕はちゃんと引き継いでいるんだと感じますね」

映画「僕は猟師になった」は、千松さんの地元京都では出町座とアップリンク京都で上映中。関西ではこの他、大阪の第七藝術劇場、神戸の元町映画館でも上映している。

(まいどなニュース・黒川 裕生)

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