千葉の住宅街で「ベルサイ湯」と呼ばれる銭湯が盛況~豪華装飾品が増加中「クアパレス」 

 新型コロナウイルスの感染拡大で娯楽を享受するにも制約が厳しくなっている当節、記者にとってささやかな楽しみの一つが銭湯である。千葉県の住宅地に「ベルサイユ宮殿のような銭湯」があると聞き、都内から片道1時間半をかけて入浴した。そのゴージャスな装飾品はもちろんのこと、店主のロマンが具現化した世界に圧倒された。現地からリポートする。

 新京成電鉄の習志野駅から徒歩約5分。訪れた「クアパレス」(千葉県船橋市薬円台)は、ネットで「ベルサイ湯」と称され、地元住民だけでなく全国各地から人々が訪れる。店を切り盛りする水野広樹さんと逸子さん夫妻に話を聞いた。

 逸子さんは「それまでの屋号(富士見湯)から、平成元(1989)年の6月に『クアパレス』に改名しました。銭湯って昭和のイメージが強いじゃないですか。平成元年だったので、昭和のにおいを消して、若い方や子どもさんにも『すごいな』と思われるような唯一無二の銭湯を目指したい…というのが主人の思いだったのかもしれません。毎年、主人は改装を続け、徐々にこうなってきたという感じです」と説明。その平成も終わり、令和となった現在も装飾品は増殖中だ。

 改装当時は今ほどの反応はなく、話題になったのはここ10年くらいだという。逸子さんは「遠くからだと、北海道、九州、沖縄の方もこちらに来られたついでに寄られます。若い人は『クアパレス、バズってますよ!』って(笑)。先日は取材の方に『銭湯のサグラダ・ファミリアみたいですね』って言われました。今、(内装は)『頂点』に来ているのかなと私は思いますけど、主人は『まだまだ足りない』と言っています」と明かす。

 下駄箱のある玄関では華やかな花と女神やピエロ、黄金の野獣らがお出迎え。番台前のロビーには豪華なソファーがあり、男湯の脱衣所では中央にライオンの置物が鎮座。逸子さんは「ライオンはお客様の邪気を払って、すがすがしい気分で帰っていただければ」と補足した。

 一方、開店前に見学させていただいた女湯の脱衣場には「お姫様気分を味わえる」という鏡台が4席。「東京からみえた30歳くらいの女性から『こんなに清潔で掃除も徹底されている銭湯は初めてです』と言われてうれしかったです」と逸子さん。その視点から新型コロナウイルスの影響についても尋ねると、「コロナ以前から清掃を一番に徹底してきましたから、変わりはありません。華美な所が注目されますが、うちは清潔感あってのものですから」と強調した。

 開店の午後3時から1時間余り入浴。平日のその時間でも男湯には若者からシニアまで30人以上はいた。ヒマラヤ岩塩の赤い湯(日替わりでモンゴル岩塩、ラベンダーなど多数)、薬湯、低周波バス、ジャグジー、岩盤泉…と、「14~15種類」の湯があり、湯船に浸かってテレビや映画も見られる。スパばりの設備で、料金は大人(中学生より)450円(サウナはプラス200円)と銭湯価格だ。

 天井を見上げるとシャンデリア。逸子さんは「シャンデリアの大きなものはお金がかかっています。改装当時の3つから徐々に増えて今は20近くあるんじゃないですかね」と話す。

 広樹さんは「私は、この地で70年やっている銭湯の2代目です。30年前に(装飾品収集を)始めた時は『変わっている』と言われたものですが、今では楽しみにしてくださっています。まだまだ未完成。ぼちぼちやっていきます」と思いを語った。まさに、サグラダ・ファミリアのごとく「ゴール」はない。その増えていく過程自体が作品だ。

 地元にある公共の入浴施設が営業を休止していることもあり、広樹さんは「お客さんがかなり増えています。薬湯を目当てに電車で通ってこられる人も多いです」。コロナ禍にも左右されない桃源郷。立川談志師匠ではないが、確かに、銭湯は裏切らない。

(デイリースポーツ・北村 泰介)

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