「ゲームがあったから生きてこられた」…ゲーム依存、背景を知れば対話への糸口が見えてくる

世界保健機構の国際疾病分類(ICD-11)で「ゲーム障害」が新たに認定、香川県ではゲームの利用ルールに関する条例素案が出され、ゲームへの依存対策を考える機会が増えてきました。

ゲームは遊びやコミュニケーションの文化として、子供たちの中で定着しており、将来の夢として描いていることもあります。その一方で、保護者からは度々ゲームへの依存を危惧する相談を受けます。

ゲーム依存はどのようにして起こるのでしょうか。

子供の遊びや依存の重要性について多くの論文を発表したドナルド・ウィニコット(小児科医・精神分析学者)は“ひとりでいられる能力”を提唱し、子供は母親などの保護的な対象への依存を頼りに、ひとりでいられる力を成長させていくことを示しました。

この能力が未熟なうちに保護者と離れて、学校や暗い部屋などの環境に置かれると、緊張して固まり、泣いて逃げ出すこともあります。

青年期に入ると独立と依存が入り交じり、終局的には社会へと発展していきますが、その間、音楽や漫画、映画やゲーム、友人や恋愛といった親以外への対象につながっていきます。このつながりの中で“ひとりでいられる能力”を発揮させながらアイデンティティを作っていきます。

「ひとりでいたいのに寂しい」という矛盾した気持ちになることもあります。

この時期は独立を求めており、親の干渉には過敏に反応します。親は本能的に反抗してくる子供の姿を病気や障害として扱い、相談機関へ訪ねてくることもあります。

生き方を模索し、その解決策が見つからないままに、ゲームに没頭している状況では、ゲームを禁止しても本質的な解決には至りません。そのため、本人がゲームとどのように付き合っているかを確認します。

あるゲーム依存をしていた大学生は、オンラインゲーム内でキャラクターを座らせて、一日中ゲーム内の友人たちと語り続けていました。

「現実から逃げていることは分かっています。大学に行った方が就職先も広がると思います。それでも足が進みません。」と語りました。

筆者は、ゲームの話をしている表情は生き生きとしていることを伝え、「ゲーム内の関係はあなたにとってのリアルなのではないですか」と尋ねました。

彼は「確かにゲームがあったから生きてこられたと思います」と語りました。彼は、大学を中退し、家族との対話を繰り返し、専門学校へと進学、本当にやりたい仕事に就きました。

ゲームが誕生して以降、数々のクリエイターが研究を重ね、バランスのとれた成長システムや心地よいフィードバックを作り上げ、進化を続けてきました。こうした進化は、標準化された教育や成績の相対評価よりも魅力的に映ります。

ある不登校の中学生は「なぜ学校に行きたくないのかが自分でもわからない」と話し、家ではゲームで失敗を繰り返しながらも、試行錯誤を重ね、作品作りを楽しんでいました。筆者は「学校で何か失敗したくないことがあるのではないですか?」と尋ねました。

すると表情が変化し、「担任に失敗を叱責され、今でもその夢を頻繁に見ています」と語りました。

ゲームでは“失敗してもやり直せる”という安心感があります。その後、筆者は「失敗も、成功の体験の一つになる」ということを伝え、彼は学校への復帰を挑戦しました。

ゲームは音楽や絵画などと同様に、学び、感動する作品といえます。子供たちがゲームに傾倒していくのには、ゲームに依存性があるのではなく、ゲームに魅力があるからといえます。

ゲーム依存は、人とゲームとの単純な依存の問題ではなく、人間関係の修復への手掛かりになっていることもあります。なぜゲームへ傾倒しているのか背景を考え、ゲームとどのように付き合っているのか、どんなゲームをプレイしているのか、そこから対話への糸口を掴んでいくということも大切です。

(公認心理師、臨床心理士・中村 大輔)

▼ネット・ゲーム依存症対策条例素案 香川県議会で検討されている条例。スマートフォンなどの使用時間は1日、平日60分、休日90分まで。義務教育修了前は午後9時まで、それ以外は午後10時まで。その後、素案は使用制限対象が「スマートフォンなど」から「コンピュータゲーム」に変更されている。条例は18歳未満の子どもを対象にし、可決されれば今年4月から施行される。香川県議会のホームページではこの素案について意見を募集している。締め切りは2月6日。

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