AI進化で万引きは「捕まえる」から「防ぐ」時代に 小川泰平氏が令和の防犯対策を解説

 令和の時代を迎えた。世の中は変わっていくが、AI(人工知能)の進化によって、万引きに対する店側の対応も変わってきているという。元神奈川県警刑事で犯罪ジャーナリストの小川泰平氏は、万引き犯を逮捕する以前に、未然に防ぐことの重要性を説いた。

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 万引きで検挙される者の内、4分の1以上に当たる26~27%が、いわゆる「窃盗症(クレプトマニア)」と言われている。窃盗症とは、利益を求めて盗むわけではなく、万引きをする時の緊張感やその後の解放感といった感情の起伏を好んで窃盗行為を繰り返す人のこと。万引きで逮捕された有名な女子マラソン選手もそうだった。

 万引きはもちろん犯罪行為であり、転売目的など組織的で悪質な万引きもあるのだが、個人的で精神的な要素の強い窃盗症の人のことを考えた場合、捕まえればいいというものでもない。むしろ、そういった人を捕まえることよりも未然に防ぐこと、万引きをさせないことが重要なのだ。

 日本では年間4500億円以上も万引きの被害にあっており、深刻な社会問題となっている。量販店など売る側は、これだけ万引きされている状況を踏まえて、その価格設定にしている。つまり、万引きされても赤字にならない価格になっているわけで、逆に万引きがなくなれば、品物はもっと安くなり、お店の利益も増える。

 例えば「AIガードマン」というNTT東日本のAIカメラ用プラットフォームサービスの場合、万引きの行為を見つける以前に、不審な動きを察知し、それを従業員のスマートフォンに連絡をする。従業員はそのお客さんに近づいて「何かお探しですか」と声をかける。冒頭で触れた窃盗症の人は声を掛けられることでドキッとして万引きをやめる。「声かけ」によって「この店は誰かが見ている」と思わせることで、高い抑止力になる。それができるシステムは画期的だと言える。

 この人工知能は過去の万引き犯の犯行現場の映像を数多く解析し、犯人の目線であったり、肩の動き等々から不審な動作を見分けているようだ。

 実際に、万引き犯の約65%は「声かけ」で諦めるというデータが出ている(警視庁ホームページより平成27年度調査)。万引き犯は声をかけられると「顔を見られた」と思い、すぐに店舗から出ていく。声をかけたお客さんが実際に商品を探している人だった場合でも、店員さんに「何かお探しですか」と声をかけてもらえると助かるわけで、サービス向上にもつながる。一石二鳥の効果がある。

 防犯カメラは2000年頃にコンビニ全店舗に導入され、モニター映像を別室で見て、不審に思ったら店舗に出て警戒に当たった。警備会社から“万引きGメン”を雇う場合も経費が掛かる。万引き犯を捕まえて犯罪者を増やすのが警察の仕事ではなく、未然に防ぐこと、抑止力を高めることが重要である。

 来年の東京五輪でも外国人に限らず、全国各地から集まる日本人の中にも、スキがあれば窃盗などに手を染める人がいるだろう。それらを未然に防ぐという意味で、AIを“ガードマン”として導入する時代になっていると実感している。

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