「ねこの絵本」を自費出版した獣医師の願い 猫との共生へ…心と知識を育みたい

 大阪府の獣医師、橋本恵莉子さんが自費出版した「お母さんのらねこのおはなし」という絵本。「過酷な外の環境で子猫を産み育てる母猫」と「それに関わる人」の姿が描かれています。大阪府下の全公立小中学校に寄贈するという絵本、なぜ製作、寄贈することにしたのか話を聞きました。

【野良猫は野生動物ではない】

 -猫は外で生きていける動物ではないのでしょうか。

 「野良猫は外で生きているのが当たり前、外で繁殖して増えるものだと、まるで野生動物のように思っている人が多いのですが、それは違います。代々野良猫として生きている猫もいますが、もともとは捨て猫や家から逃げた猫で、人の手によって野良猫として生きることを強いられているのです。猫は、もともと苦労して生きる動物ではないのですが、野良猫になると外での生活に順応できず、苦労しています」

 -野良猫には、どんな苦労があるのでしょうか。

 「猫同士ケンカをして怪我をすることもありますし、病気にもなりやすく、交通事故に遭う猫もたくさんいます。子猫が産まれても病気になったり、カラスに突かれたりして、亡くなってしまう子猫がたくさんいます。保健所で殺処分される猫は減ってきているのですが、交通事故や行き倒れの猫は数に入っていないので、現実には、公表されるよりずっとたくさんの野良猫が死んでいるのです。どんなにボランティアが頑張っても、猫を捨てたり外に逃してしまったりすることがなくならないと、こうした問題は解決しません」

【子供たちに知ってほしい、野良猫の真実と地域猫活動】

 -絵本には、野良猫の苦労が分かりやすく描かれていますね。

 「子供たちは、産まれた時から外に野良猫がいるのが当たり前になっているので、まるで野良猫を野生動物のように思ってしまいます。でも、本当は、最初から野良だったわけではなく、捨てる人や逃がす人がいるからそうなる。でも、野良猫に救いの手を差し伸べることができるのも人なので、地域猫活動のことを題材にした絵本を作りたいと思いました」

 -地域猫活動とは、どんな活動なのですか。

 「地域猫活動とは、TNR(これ以上不幸な野良猫が増えないように、猫に不妊手術をして、元いた場所に放す活動)です。TNRをして放した後も、エサをあげたり、トイレの管理をしたりして見守ります」

【まだまだ知られていないボランティア活動】

 -ボランティアさんと地域の野良猫嫌いの人との間に摩擦もあるのでしょうか。

 「野良猫との共生の仕方が全然知られていないのです。公園でエサをやっていると『エサをやるな』と暴言を吐かれることもあり、不妊手術をしようと捕獲器を持って歩いているとうさんくさい目で見られることもあります。ボランティアさんの活動自体が知られていないことがあるため、苦労する原因になっているのです。絵本を通じて、何のために地域猫活動をしているのか理解してもらえたら、ボランティアさんがもっと活動しやすくなると思います」

 -絵本を読むことで、野良猫に対する考え方が変わるといいですね。

 「クリニックのある地域でも、年配の人は『猫が車にひかれても、それはそれで仕方がない』と言うのです。子供の頃から野良猫に関する正しい知識を持ってもらうことで、文化が変わると、そうした考えの人は少なくなるでしょう」

 -今回、大阪府下の全公立小中学校に絵本を寄贈するのですか。

 「最初に100部自費出版して、売れるのは売れたのですが、販売すると、ボランティア活動をしている人や、その友達とか興味のある人しか買わない。幸い100部売れましたが、野良猫のことや猫の不妊手術の重要性、地域猫活動のことを知らない人にも読んでもらいたいのです。寄付を募り、絵本を公立小中学校に寄贈することにしました」

 -たくさんの人に読んでもらえるといいですね。

 「大阪府下の公立小学校1004校、公立中学校463校に寄贈するプロジェクトで、残りは私が主催する『いのちの教室』で配布するプロジェクトだったのですが、寄付目標額を達成し、全校に寄贈できることになりました。子供だけでなく保護者の方にも一緒に読んでもらえると嬉しいです」(神戸新聞特約記者・渡辺陽)

◆渡辺陽(わたなべ・よう)大阪芸術大学文芸学科卒業。「難しいことを分かりやすく」伝える医療ライター。医学ジャーナリスト協会会員。フェイスブック(https://www.facebook.com/writer.youwatanabe)

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