J1広島・鮎川峻“失点の嗅覚”でチームを救った19歳のストライカー

 あ、戻らなきゃ。

 咄嗟(とっさ)に感じたその瞬間、J1広島のFW鮎川峻は走り出した。ゴール方向ではなく、後ろに向かって。

 3月21日の大分戦。同点の後半42分、広島は前線から厳しいプレッシャーをかけて相手を追い込んでいた。

 敵陣でボールを奪えば、決定機が来る。共通認識を持ったチームは、リスク覚悟で前にかかった。ボランチの川辺駿や青山敏弘らも前線からのプレスに連動し、大分を右タッチライン際に追い詰めた。

 チームが熱く前に出たこの時、鮎川はクールになった。

 「(川辺)ハヤオくんが前に出た。スペースが空く。危険だ」

 19歳のFWを動かしたのは「自分で決める」という我欲ではなく、チームのためにできることを探す本能だった。

 鮎川が後ろに動いたその時、大分の名手・下田北斗が浮き球で広島のプレスを打開した。パスを受けた町田也真人はフリーだ。危ない。

 次の瞬間、町田の背後から強烈な圧力をかける紫の戦士がいた。鮎川が猛然と走り、相手の自由を奪ったのだ。

 苦しくなった大分のアタッカーは左サイドにパスを出す。だが鮎川のプレスによってパスコースは限定。今津佑太は余裕を持ってボールを奪った。

 今津は運び、そしてスルーパス。ゴールしたのは、鮎川のカバーを受けて前線に残っていた川辺駿だった。

 「本当によく戻ってくれていた」

 城福浩監督も、19歳の決断を絶賛。カウンターのピンチを事前に察知し、その危機を逆に得点に繋げた知性は、鮎川の才能だ。終了間際、鮎川にプロ初ゴールが生まれたことは、チームのために知的な献身を続けた若者に対する贈り物だ。

 ただ、献身だけでは、サバイバルできない。ルヴァンカップ・横浜M戦(3月27日)、ジュニオールサントスの決定的パスを受けた鮎川はシュートを決めることができず、指揮官は45分での交代を決断した。

 試練は続く。だがそれは、本物のストライカーに成長するための試練である。

(紫熊倶楽部・中野和也)

 ◆鮎川峻(あゆかわ・しゅん)2001年9月15日生まれ。愛知県春日井市出身。ポジションはFW。背番号23。164センチ、61キロ。FCフェルボール愛知を経てサンフレッチェ広島ユース入り。高校3年の19年9月にサンフレッチェ広島とプロ契約。今年2月27日の仙台戦でJリーグ初出場。3月27日の大分戦で初ゴールを決める。

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