女子プロレス新人ヒールに想定外の大声援「まさかこうなるとは…プロレスは面白い」メガトンに聞いた
女子プロレス・マリーゴールドの新人レスラー、メガトンが不思議な存在感を示している。“令和の極悪女王”の触れ込みだったはずが、いまや声援とメガトンコールを集め、対戦相手にブーイングが起こる事態となっている。
巨体を揺らし「ガオー!」と吠えまくる。ボディプレスと袈裟斬りチョップ、モンゴリアンチョップを武器に戦う。あっけなく敗れても、一生懸命な姿が周囲を和ませている。
メガトンは舞台女優、お笑い芸人でもあった轟もよ子の“化身”だ。轟を直撃すると「メガトンになると体がのっとられるというか、憑依されるというか…私が私じゃないみたい」と話す。38歳の遅すぎるルーキーは「まさかこうなるとは…プロレスは面白い」と声を弾ませた。
1・3大田区総合体育館大会で、ボジラの極悪マネジャーとして初登場。リングにも上がり、1・19後楽園大会ではワールド王者・林下詩美と、2・7新宿大会ではMIRAIと一騎打ち。完敗だったものの大声援を集めた。
詩美、MIRAIの攻撃にはブーイングが飛んだ。轟は「(お客さんに)受け入れられるか不安だったけど、とにかく必死にやっています。攻撃されて『かわいそうだろ!』なんてヤジが飛ぶのは、どうしてか分からない」と首をかしげる。
風香アシスタントプロデューサー(AP)は昨年末から轟の経歴を報道関係者に伝え、多くのメディアに取り上げられる契機をつくった。
轟は東京・浅草生まれ。25歳で父が肝臓がん、30歳で母が多発性骨髄腫で死去。母は余命5年の宣告から1カ月足らずで急逝。そのショックで自死が頭に浮かび、7歳上の兄は現在も引きこもり生活が続く。
轟は舞台では悩みを忘れられた。2020年に母が大好きだったプロレスをモチーフとした演劇作品に出演したことを契機に、プロレスを軸にエンターテインメント活動を行うアクトレスガールズに入団。同団体の演劇、リング活動をこなしていた中、アドバイザーだった風香APに、プロレスラーへの夢を直訴。マリーゴールド入りしていた青野未来らに続き、練習生として加入。引きこもりの兄は、妹のデビュー戦を観戦すると意欲を示していたという。
苦労人が困難を乗り越え家族のために戦う-そのような物語に収まらない不思議な魅力が、メガトンにはあった。
リングネームは昨年末にロッシー小川代表から命名された。他の候補ネームがお蔵入りになったことで、メガトンの意味合い、顔のペイント、コスチュームの由来等、見切り発車の部分が多かった。これが新たな展開を呼んだ。
轟は報道関係者との雑談を思い返す。「どういう意味ですか、と聞かれて『メガトン星から来て、他人のものを勝手に食べていたら星を追放されて、漂流した地球で落ちていた服を着た』と話したら記事になって驚きました」。想定外の事態もプロレスの魅力の一つだろう。
幼い頃、プロレス好きの母に会場に連れられ「豊田真奈美さんがキレイで『うわ~』となりました」と思い出を語った。中学時代は「高橋奈七永さんの『キッスの世界』のCDを買いました」と話す。
大学までテニスを続け、25歳で会社勤めを辞めて演劇を志した。母にはプロレスの他に、演劇、映画、ミュージカル、大相撲に連れられた。演劇の養成所に入所して半年後、誤って声優コースだったことに気付いた。
そんなエピソードを持つ轟の人となりが、ファンの心にも届いたのだろう。気がつけば“極悪女王”ではなく、“愛されヒール”“癒やし系ヒール”の地位を確立するようになった。
風香APは「私は悪いヒールになってほしかったけれど、彼女の持つ雰囲気がファンに受け入れられたのかな」と現状を語った。そして「人生が変わったことに、彼女自身が驚いていると思う。マリーゴールドのリングに楽しさ、明るさを出せている」と語った。
轟はアクトレスガールズ時代を「本気でプロレスが好きになっていった」と述懐。その気持ちが本物だったからこそ、練習生時代は前転すらできなくとも、現在の輝きに至ったのだろう。
兄の観戦は実現していない。「妹がプロレスラーになったのが複雑みたいで…」と述べ「3月30日の後楽園大会は『行こうかな』とは言ってくれています」と語った。
最後に突如顔つきが変わり、轟はメガトンに変身。「プロレス界をのっとってやる。ガオー!」と、ややパンチに欠ける意気込みを披露しつつ、「ガオー!」の意味合いを「メガトン星のあいさつだ。ガオー!」と謎の一端を明かしてくれた。





