【聞きたい】人工知能（ＡＩ）の進化をよくニュースで見ます。私の仕事は、明らかにＡＩに取って替わられるような仕事です。それでも、やりがいを持ってやってます。機械に仕事を取られたくない…先のことを考えると不安です。私は失業するのでしょうか？（３５歳・女性）

　【答えます】結論から申し上げると、人工知能（以下ＡＩ）の進化によってあなたが失業することはまずないと思われます。

　私は現在、大学院でＡＩの倫理観について研究をしています。ＡＩが人間社会で活動する際に、倫理的に正しい決断を下すことができるかという研究です。つまり、ＡＩをより人間らしく進化させようとしているわけです。

　そこで気が付いたことは、いかに人間が普段細やかな配慮をもとに行動しているかということです。

　例えば人は、上司にはんこ一つもらうにしても、今上司は忙しくないだろうか、機嫌は悪くないだろうかと無意識に考え、皆が気分よく、効率的に働けるように行動を選択しています。どんな作業も、いくつもの複雑な判断の上に成り立っており、仕事というのはうんざりするほどたくさんの作業の積み重ねです。ただ計算や作業が速いだけのコンピューターが１００％取って代わることはできないでしょう。

　ただ、作業の効率化という点で、ＡＩがあなたの仕事のお手伝いができる日は来るかもしれません。

　あなたの仕事を奪うのではなく、あなたがやりたい作業に集中できるように、スケジュール管理をしたり、うっかりミスを指摘したり。現時点で想定できるのはその範囲のことで、研究者としては残念ではありますが、あなたの不安は杞憂（きゆう）と言っていいと思います。

　さて、遠い未来では、もしかして人に代わってＡＩが働く社会になっているかもしれません。では、街には失業者があふれ社会は貧しくなるのか？　と言うと、そうではないとお答えできます。ＡＩが仕事を奪うなんて言うとなんだかマイナスなイメージですが、その分、芸術や人とのふれあいなど、人間にしかできない活動に割ける時間が増えると考えてみてください。

　どうでしょうか？ＡＩ社会の到来が少しだけ楽しみになったのではないでしょうか。私はそんな未来を夢見て、研究を続けています。

　◆宇田川那奈（うたがわ　なな）東京都出身、２４歳。東大工学部を卒業し、現在京大大学院情報学研究科に在学。人工知能の倫理観を研究している。大学１年で麻雀を覚え、雀荘通いを続け、プロ並みの腕前を誇る。趣味は競馬という無頼派。