アニサキス食中毒のリスクが高まる 加熱調理したあとでも発症する「アニサキスアレルギー」、食べる前に十分注意を
暑くなると食中毒の発生が増えますが、本邦ではキャンピロバクター、ノロウイルスに次いで、食中毒3番目の原因とされるアニサキスの食中毒リスクが高まったことが、内閣府の調査で分かりました。
アニサキス食中毒には2つのタイプあります。アニサキスは線虫の仲間で魚介類の代表的な寄生虫です。長さ2~3センチの白い木綿糸が輪状になったような見た目で、肉眼でも確認できます。最終宿主はクジラやイルカなどで、その卵が海中に排泄され、オキアミが捕食し、それをサバなどが食べてアニサキスが寄生します。通常は魚介類の内臓に寄生していますが、魚介類の死後は内臓から筋肉に移動します。そのため、生のサバやイカ・イクラなどを刺し身や寿司として食べると、生きている虫体を一緒に食べることになります。
そもそもヒトは宿主ではないので、アニサキスは消化管を素通りしますが、運が悪いと胃や腸の壁に食い込むことがあり、激しい胃痛や下痢、嘔吐などを発症しこれを「アニサキス症」と呼びます。一方、酢で締めたり加熱調理して死んでいるアニサキスを食べても、胃痛や蕁麻疹を発症する「アニサキス・アレルギー」という病態があります。今世紀に入ってアニサキスはアレルギーの元である「抗原」を多種多様、さらに大量に含むことが判ってきました。つまり生きた線虫が直接関与する「アニサキス症」と、加熱調理したあとでも発症する「アニサキスアレルギー」の2つがあるのです。
さらに、アニサキスにも「S型」と「P型」の2種類があり、S型は太平洋に多く、宿主である魚が死ぬとすぐに内臓から筋肉(我々が食べる“身”の部分)に移動する性質があります。P型は日本海に多く、死んだ魚の内臓から筋肉に移動する個体は非常に少なく、S型がアニサキス食中毒の原因で、これまでは日本海で獲れるサバは大丈夫だけど、太平洋で獲れたサバは危ないとされてきました。
ところが先日内閣府は、日本海には少ないとされていた太平洋のS型アニサキスが、日本海でも増えていると発表したのです。地球温暖化が原因で、太平洋のサバが日本海にも回遊したと考えるのが妥当でしょう。日本海のサバは安全と言われていたのは過去の話です。物流技術が発達したことで、太平洋のサバが日本海地域のスーパーに並ぶ場合もあります。アニサキスは目に見えますので、食べる前には充分注意してください。
◆松本浩彦(まつもと・ひろひこ)芦屋市・松本クリニック院長。内科・外科をはじめ「ホーム・ドクター」家庭の総合医を実践している。同志社大学客員教授、日本臍帯プラセンタ学会会長。
