【松本浩彦医師】現代の創薬はスーパーコンピューターが主役 次世代スパコン「富岳」に高まる期待

 今回はみなさんの周囲に当たり前のようにある「薬」を創る側のお話をします。薬はなぜ効くのか。病気になった時、我々の体の中では病気の原因分子(おもにタンパク質)が活発に働いています。薬は病気の原因分子に結合してその働きを抑えてくれます。言ってみれば「鍵穴をふさぐ」ような感覚です。

 かつては「創薬」つまり新薬を作るのは「太平洋に浮かぶ1枚の木の葉を拾い上げるようなもの」とされてきました。何百何千という化合物の候補を順番に、試験管の中や動物実験で効果を試して、失敗してはやり直すという、気の遠くなるような作業の繰り返しで産み出されてきたのです。

 ですが最近では大きく変わっています。現在の創薬では、まず初めに病気の原因となるタンパク質の形状を分子レベルで解明する「X線解析」から始まります。そこからコンピューターが活躍します。原因タンパクの構造を見ながら、どの部分を攻撃すれば病気を抑えられるか、その部分に結合する化合物を何万もの候補から見つけ出し、今度はその構造を少しずつ変えて、効果・安定性・安全性など、より良いものにしていきます。タンパク質の動きをシミュレーションし、化合物の性質を精度よく予測するので、実験で試行錯誤というロスがありません。

 今やこの新しい創薬法はあらゆる疾患に対する新薬の開発に用いられています。ただしそのためには「京」(理化学研究所)クラスのスーパーコンピューターでなければ計算できません。従来のコンピューターなら数カ月かかっていた計算を「京」は23日で成し遂げていました。「京」の後継スーパーコンピューター「富岳」にも、創薬界をさらにリードしていく役目が与えられているのです。

◆松本 浩彦 芦屋市・松本クリニック院長。内科・外科をはじめ「ホーム・ドクター」家庭の総合医を実践している。同志社大学客員教授、日本臍帯プラセンタ学会会長。

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