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「プラセボ効果」から得る教訓…人の体、実はわからないことだらけなんです

 「町医者の独り言・第6回」

 前回の第5回コラムで最後に触れたプラセボ効果(偽薬効果・暗示効果)に関する面白い話があります。2002年の「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン」誌に記載されている記事です。それまでのプラセボ効果は、内服や注射、点滴、食物の摂取などが主な対象だったのですが、なんと外科手術に対し、なされていたというのです。

 膝が悪い人に「本当の手術をしたグループ」と「皮膚を切開したのみのグループ」に分け、その効果を調べたのです。結果は、驚くべきものでした。2つのグループで、治療効果の差は認められなかったのです。それどころか、皮膚だけを切ったある患者さんは手術をされたと信じ込み、それまでは杖(つえ)をついて歩いていたのに、バスケットボールができるまで回復されたとか。にわかに信じがたい話ですが、本当に起こったことなのです。

 さらに面白い記事があります。2000年の「サイエンス」誌に記載されています。ウイルスや細菌が、ある疾病の原因となることがあるというのが「細菌説」です。それを確立したのは、有名なパスツールとロベルト・コッホです。しかし、それば間違いだと主張したペッテンコーファー(医師であった森鴎外のドイツ留学時代の恩師)は弟子とともにコレラ菌の入った水を飲みほしましたが、下痢のみで脱水症状を起こさなかったというのです。すなわち、コレラに罹患しなかったのです。

 何が言いたいか…要するに現代医学、科学でも解決できていない、わからないことは多数存在しているのが明白であるのに、医学者、科学者たちは自分たちが説明できないこと、わからないことは無視をするか、切り捨ててしまうことがあるということです。

 私は現代医学、科学を否定しているのではありません。

 ただ、こう言った事実があるということを認識して頂きたいのです。現代医学では分からないことが、まだ数多く存在するということも認識して頂きたいのです。われわれ医師、一般の人たちは、人の体が現代医学ですべて解明されているように思いがちです。それは全くの間違いであるということを知っておくべきだと思うのです。

 人ゲノム(ヒトゲノム)、簡単にいうと人間の『設計図』がすべて解明されたときに、猛烈な勢いで医療が発展することが予想されましたが、今のところ期待されていたほど大きな変化はみられません。iPS細胞にしても然りです。

 日夜寝食を忘れて研究に没頭している科学者、医師はたくさんおられます。そのおかげで科学、医学は着実に進歩していますが、すべてが解明されているわけではなく、むしろ解明されていないことのほうが多いと考えた方がいいでしょう。ですから、我々医師は、謙虚な態度で治療に臨まなければならないと常日頃から自分に言い聞かせてます。目の前の患者さんに不利益が被ることがないようにするには“固定観念”を持たずに日々勉強していくしかないんです。

 ◆筆者プロフィール

 谷光利昭(たにみつ・としあき)たにみつ内科院長。1969年、大阪府生まれ。93年大阪医科大卒、外科医として三井記念病院、栃木県立がんセンターなどで勤務。06年に兵庫県伊丹市で「たにみつ内科」を開院。地域のホームドクターとして奮闘中。

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