【野球】実は6人でつなぐ変わらない声 甲子園場内アナウンスの現場とは?「自分の色を出したいとは思ってなくて」 地道な努力と入念な準備
野球の試合開催に欠かせない職業は多岐にわたる。その中でも「声」で聖地を支える場内アナウンスの現場にスポットを当て、甲子園事業部・運営担当(放送)で7年目を迎える裏川春菜さん(27)に話を聞いた。「ウグイス嬢」と呼ばれ華やかにも思える役職は、地道な努力の積み重ねと入念な準備によって成り立っている。
「4番・サード、佐藤輝明」-。どこか安心感のある美しい声が銀傘に反響する。場内アナウンスは、甲子園の“日常”に欠かせぬ存在だ。
「実はもともと野球はそんなに見たことがなくて…」と裏川さん。きっかけは放送部に所属した中学時代、野球部の監督から「場内アナウンスをしてみないか」と誘いを受けたことだった。放送を通じて白球のとりことなり、高校では野球部マネジャーに。「場内放送と言えば甲子園っていうイメージが強かったので」と“最高峰の舞台”を志すようになった。
もちろん入社後すぐに甲子園でアナウンスができるわけではない。明確な規定はないものの、一人前になるまでには約3年を要するという。1年目は、甲子園の自動音声サービスに試合案内や速報を吹き込む業務、球場の外周放送からスタート。シーズンオフには一般客への貸し球場で放送を担当する。その後、高校野球やファームで経験を積み、最終的に1軍の場内放送を任される。
成熟した証しの一つが巨人戦だ。裏川さんの場合は、コロナ禍の影響もあり入社4年目に初めて担当。「伝統の一戦というのは、私たちも重きを置いている部分はあります。ある程度ステップを踏んだ上で、最終的にできるステージです」という特別な舞台だ。
業務中は、選手の治療や悪天候の対応など、臨機応変さが常に求められる。「いまだに勉強中だなと感じます。いつ何が起こるかも分からないですし、本当にヒヤヒヤしながら過ごしています」。日頃から原稿や選手名を個人練習し、アクセントが分からない場合はNHKが発行している「アクセント辞典」で確認。乾燥対策の徹底など喉の管理も重要な職務だ。
また、シーズンオフには全球団からメンバー表を受け取り、新入団や同姓の選手などをチェック。アクセントに迷った選手がいれば放送員間ですり合わせ、意見が割れた場合は該当球団のマネジャーに確認したり、他の球場で行われたオープン戦のアナウンスを参考にしたりするという。
ところで、甲子園のアナウンスは、声質や読み方が一定していると感じる方が多いのではないだろうか。もちろん毎試合、同じ担当者がいるわけではない。現在は6人の放送員が在籍。個性は出せないのか?という問いには「自分の色を出したいとは思ってなくて」と言い切る。「ありがたいことに、『甲子園の放送はみんな一緒』『6人もいるふうに思えない』と言っていただくことが多くて、私たちとしては本当にうれしい。それを、どんどん受け継いで行きたい」。歴代の先輩に助言をもらいながら、変わらない「声」をつないでいるのだという。
昨年、初めて日本シリーズの放送を担当したという裏川さん。「そういった大きな舞台は引き続き目指したい」と今後の目標を掲げたが、「けど」と続けた。「その日しかない試合をできるというのは本当に貴重で、うれしさがある。目指して行く先は…。『こういう試合』というよりは、『一試合一試合を大事に』という気持ちは、持ち続けたいなと思います」。試合は生き物。それを支える放送員もまた、球場マイクを通して聖地に息吹をもたらす一員だ。
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裏川さんは、心に残っている試合の一つに2023年のクライマックスシリーズを挙げる。日本シリーズ進出を決めた10月20日のファイナルステージ第3戦・広島戦でアナウンスを担当。「試合終了後に表彰式が控えていたんですけど、その日に決まるか分からない中で準備したり、放送の練習をして先輩に聞いていただいたりと、すごい緊張した記憶があります。18年ぶりにリーグ優勝して注目度も高い中だったので印象に残っています」と懐古した。(デイリースポーツ・間宮涼)
【場内アナウンスの一日】
場内アナウンスの一日は、プロ野球のナイターゲームの場合、午前10時から始まる。出勤後はまず放送室の準備を行い、当日の原稿や秒単位で組まれているスケジュールを確認。午後2時からは、BSO担当者、CM放映などの動画担当者、音響、ディレクターら、放送室に入るメンバーと打ち合わせを行う。早めの夕食を済ませたら、午後4時の開門以降は放送室に入りっぱなし。午後10時半~11時ごろに退勤と、甲子園で丸一日を過ごす。
