【野球】監督不在がもたらした完全試合「いたら、絶対降ろされてた」史上13人目の快挙を達成した八木沢さん

八木沢荘六さん
 ロッテ時代の八木沢荘六さん=1977年
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 元ロッテ監督で、日本プロ野球OBクラブ理事長を務める八木沢荘六さん(80)は、プロ野球史上13人目の完全試合達成者だ。1973年10月10日、宮城球場で行われたロッテ-太平洋(現西武)戦で快挙を成し遂げた。プロ入り7年目、プロ初完封が完全試合だった。男泣きした八木沢さんが、完全試合を導いた“3つの奇跡”を明かした。

  ◇  ◇

 12時1分にプレーボールとなったダブルヘッダーの第1試合。マウンドに上がったのは、予定されていた村田兆治投手ではなく、第2試合の先発が予定されていた八木沢さんだった。

 試合当日の午前、練習中の八木沢さんに植村(義信)コーチからこんな打診があった。

 「兆治が寝違いになって投げられないから、ロクさん、投げられるかと言ってきたんで、投げられますよと。だって、俺はリリーフ投手だから」

 いつ登板機会が訪れるか分からないリリーフを本業としていた八木沢さんは急な変更を受け入れた。

 そもそも先発をすることになっていたのは、射程圏内にあった最高勝率を狙うために必要な、規定投球回(当時の試合数と同じ130回)を稼ぐためだった。

 「米田さん(阪急)が相手だったんですよ。僕は6勝だったけど130回あれば勝率で上回れる。残り試合は5試合ぐらいあったけど、長いイニングを投げるためにいったんです」

 “別の目的”があった登板で八木沢さんは、3人ずつ、テンポよくアウトを重ね、5回まで15人を50球で抑えていた。

 「3、3、3、3とずっと(打者が)3人ずつで5回までいったんですよ。俺、投げ続けていいのかなあ、と。でも誰も何も言わないんで六回もいったら、また3人で。七回にとんでもないことになったと思って」

 あと9人を意識し始めると緊張が全身を覆ってきた。それでも八回を乗り切り、迎えた九回。気持ちは極限状態になった。

 「あと3人になって震えちゃって」

 八木沢さんは足をガタガタと震わせてみせた。気持ちを静めてくれたのはマウンド付近に落ちていた小石だった。

 「それを見たら、俺、何やってんだろうって。気持ちがスーッとなって。よしいくぞとロージンを握ったんです」

 九回2死から迎えたのは27人目の打者、代打レポーズ外野手。

 「(カウント)2-2からシュートを投げたら、ちょこんとバットに当てたので、やったと思って。打球は左中間に飛んで、レフトのアルトマンは10メートルも走らなかったね。でも、なんかヨレヨレしてるから大丈夫かなと思って。それで終わったんですよ」

 94球、1時間43分の快投ショーだった。スコアは1-0。相手先発の東尾修投手から打線は二回に虎の子の1点をもぎ取っていた。このシーズン、八木沢さんは6回2/3を投げたのが最長だったが、プロ入り7年目にして初めての完封を完全試合で飾ったのだ。

 偉業を報じた翌日のデイリースポーツには対戦相手の脱帽コメントが並べられた。「コントロール抜群」「球威はたいしたことなかったが、コントロールがよかった。あれよあれよといってるうちにやられた」-。

 「3つの奇跡があったんですよ」。八木沢さんは快挙達成の理由を愉快そうに打ち明けた。

 「まず村田兆治の寝違いがあって、第2試合が第1試合に変わったこと。次にショートの飯塚(佳寛)、足は速いんだけどエラーが多いんですよ。そこに最初の打球が行って1アウト目を取れたこと。3つ目は監督がいなかった!」

 ちゃめっ気たっぷりに言い切った。

 「監督がいたら、絶対5回で降ろされてた。『もういいだろ』って。俺は打たれてないのが分かってるけど、監督がいたら『完全試合』っていうのは頭になかったと思う」

 歴史的な一戦を金田正一監督は見逃している。「歯痛でいなかったんです」。監督代行は高木公男コーチが務めていた。

 この年、八木沢さんは55試合に登板し7勝1敗、防御率2・77。投球回は、当時の規定投球回数を1/3回上回る、130回1/3。勝率・875で最高勝率のタイトルを見事に獲得した。

(デイリースポーツ・若林みどり)

 ◇八木沢荘六(やぎさわ・そうろく)1944年12月1日生まれ。栃木県出身。作新学院、早大を経て、66年のドラフト1位で東京(現ロッテ)入団。73年にプロ野球史上13人目の完全試合を達成、最高勝率・875を記録した。在籍13年で394試合に登板。71勝66敗8セーブ。防御率3・32。92年から94年途中までロッテ監督。ロッテを含め、西武、横浜、巨人、阪神、オリックス、ヤクルトと7球団のコーチを歴任した。日本プロ野球OBクラブ理事長。

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