【スポーツ】脊髄損傷からの再起 炎鵬を支えた言葉の力 「『足るを知る』って言葉を知っているか?」

 大相撲名古屋場所で、元幕内の序ノ口炎鵬(29)=伊勢ケ浜=が7場所ぶりの復帰を果たした。昨年夏場所で脊髄損傷の大ケガ。一時は寝たきりの状態から、厳しいリハビリを乗り越えて土俵に戻って来た。名古屋場所中の取材では、印象的なフレーズを残すことが多かった炎鵬。再起を支えた言葉の力とは。

 名古屋場所2日目、420日ぶり復帰の取組を終えた第一声。敗れた炎鵬は「最高ですね。相撲は最低でしたけど」と笑って言った。以降の取材でも「誰も想像できないような未来を作りたい」、「新たな扉を開いた」、「みんなの期待以上を超える自信がある」、「今日の自分より明日また強くなること。その先に何が待っているか分からないけど、希望はある」など、豊富な語彙(ごい)に感心した。

 “お相撲さん”といえば、寡黙なイメージが昔は根強くあった。最近はよくしゃべる力士も多いが、印象的なフレーズがパッと出てくる力士はなかなかいない。そのことを伝えると、炎鵬は「そうですか?同じようなことしか言っていないと思うけど」とはにかみつつ「ケガしてポジティブになったというか。相撲にかかわらず、全てのことに対してポジティブに変えていけるようになった」と変化を明かした。

 大ケガをする以前は、黒星を引きずるようなネガティブ思考だったという。前向きに変わったきっかけが、長期休場中の読書だった。「今まで読まなかったけど、本はめっちゃ読みましたね」と15~20冊を読破。その中で人生の指針となるような言葉にも出会った。チベット仏教の最高指導者、ダライ・ラマに関する書籍にあった「足るを知る」。欲しいものを際限なく求めるのではなく、自分に必要なものを理解し、今あるものに「ありがたい」と感謝して満足する大切さを説いた仏教の教えだ。

 ちょうどその本を読んでいた春場所中、宮城野部屋の師匠代行を務めていた玉垣親方(元小結智乃花)から「『足るを知る』って言葉を知っているか?おまえにとって大切な言葉だよ」と声をかけられ、より深く心に刺さったという。日常生活すらままならない時期を経験した炎鵬は、朝起きて、食事をして、相撲をとれる毎日が「本当にそれだけでうれしいこと。当たり前じゃない」と再認識。「すごくいい言葉をかけてもらった」と感謝があふれた。

 苦境の中で出会った希望の種。相撲から離れた部分でも、人生の貴重な財産となった。

 「一人の人間として生きていく上で、大切な時間だったんだろうなって。人って、心の持ちようで気持ちだけ変われば、これだけ変われるんだなって、自分でも感じています。言葉一つで食いしばれたり、踏ん張れたり、人間が変わるきっかけになったりする。すごい力があるんですね」。

 晴れ晴れとした表情はポジティブそのものだ。多くのファンが帰還を待っていた167センチ、100キロの人気業師。これからも言葉の力を支えに、完全復活への道を歩んでいく。(デイリースポーツ大相撲担当・藤田昌央)

関連ニュース

編集者のオススメ記事

インサイド最新ニュース

もっとみる

    主要ニュース

    ランキング

    話題の写真ランキング

    写真

    リアルタイムランキング

    注目トピックス