【ボクシング】「おもてなしリスト」には焼酎の種類から「肉は和牛」まで 失脚した山根明氏が舞台裏で見せた涙の意味とは?

 新団体で自身の名を冠したタイトル戦の宣言を行う山根明氏=2019年9月29日
 騒動のさなか、妻(右)に口元を押さえられながら自宅へ戻る日本ボクシング連盟の山根明会長(18年8月8日)
 新団体設立を発表した山根明氏(右)とヘビー選手の高橋知哉=2019年9月3日
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 アマチュアを統括する前日本ボクシング連盟会長の山根明さんが31日、肺がんのため大阪市の病院で死去した。84歳だった。

 2000年シドニー五輪で日本代表監督を務め、11年2月に会長就任。12年ロンドン五輪では村田諒太の金メダルなど日本勢初の1大会複数メダルにつなげ、プロに先駆けて女子ボクシングを強化するなど、連盟トップとしての手腕を発揮した。一方で、世間で知られるのは、いかつい風貌と「世界の山根」「カリスマ」と自称した強烈なキャラクター、そして、強権的な連盟運営で最後は退陣に追い込まれた一連の騒動だろう。

 日本連盟が山根氏に退任要求を突きつけたのは、18年春。その活動をけん引した「日本ボクシングを再興する会」の関係者は当時、「もう時間がない」と話していた。

 前会長には数々の問題が明らかになっていた。中でも、20年に予定されていた東京五輪への大きな懸念材料が、国際ボクシング協会(AIBA=現IBA)のトップ、ガフール・ラヒモフ氏との親交の深さで、国際オリンピック委員会(IOC)はラヒモフ氏が国際犯罪に加担しているという疑念から、ボクシングの五輪競技除外を警告していた。開催国の競技団体トップが、火種となっている人物との親交を公言していたことは大きな問題だったが、山根氏は「友達だから、友達ではないとは言えない」とかたくなだった。

 良くも悪くも情が深く、親分肌。山崎静代(南海キャンディーズ・しずちゃん)を擁して女子ボクシングを盛り上げるなど、アイデアマンでもあった。クーデターのような形で失脚の追い込むことを「本当はつらい」と話す連盟関係者もいた。

 そんなある種の人望が、山根氏を「裸の王様」にしてしまう結果となった。各都道府県連盟には、山根氏来訪に備えた「おもてなしリスト」が存在し、ホテルの部屋にはミネラルウオーターの本数や冷蔵方法から、「みかん1ネット・りんご(むつ)2、3個 高級品」「麦焼酎(赤シャツ500ミリリットル愛媛の銘柄1本)」、体育館の会長室には、「ドリップコーヒー(2種類)20パック」「カンロ飴 その他の飴2種類くらい各1袋」、食事の好みも「肉…和牛しか食べない(豚、鳥ダメ)ハンバーグも合いびきはダメ」など、30種類超の細かい注意書きがあった。ふくれあがった権力と、周囲の忖度(そんたく)。双方が重なり合ったこれらの厚遇も、強権的な連盟運営をイメージづけた。

 騒動のさなか、山根氏の携帯に何度も電話をした。映画「ゴッドファーザー」のテーマの呼び出し音のあと、必ず「なんであんなことを書くんや!」と怒られた。そして、必ず「俺はボクシングのためにやってきたのに」と言ってはばからなかった。

 すべての立場から失脚しても「世界の山根」は変わらなかった。19年9月には、京都市内で自身が設立した新団体「WYBC(ワールド・ヤマネ・ボクシング・チャンピオンシップ)」の初興行を行った。1年1カ月ぶりのリング上で「男冥利(みょうり)に尽きる。おおきに!」とあいさつした山根氏は、舞台裏の薄暗い控室で妻とともに泣いた。「裸の王様」のボクシング愛だけは、最後まで本物だった。合掌。(デイリースポーツ・船曳陽子)

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