【野球】もし予告先発なしの日本シリーズならどんなドラマが誕生したか-思い起こす92年、野村ヤクルトの幻の“奇襲先発”

 「SMBC日本シリーズ2023」が開幕し阪神、オリックスは1勝1敗で31日の第3戦(甲子園)に突入することになった。

 今シリーズも予告先発だが、もしそうでなければどんなドラマが生まれたのだろうか。そう思うと1992年の日本シリーズで故野村克也監督の試みた“奇襲”、故高野光さんの幻の先発登板を思い出した。

 当時、野村さんは「弱いチームが予告先発したら不利になる投手をやりくりするのが監督の腕の見せどころ」と、持論を展開していた。実際、その言葉を裏付けるような起用法を考えていた。

 ヤクルト-西武との間で行われた日本シリーズでは、初戦先発はヤクルトが岡林洋一現ヤクルトスカウト、西武が渡辺久信現西武球団本部GM。第2戦はヤクルトが荒木大輔氏、西武が郭泰源氏が先発して1勝1敗となり10月20日、西武ライオンズ球場で行われる第3戦を迎える予定になっていた。ところが雨天で試合中止となり、翌21日に第3戦が順延となったのだ。

 21日の試合ではヤクルトがルーキーだった石井一久氏現楽天球団取締役SD、西武が石井丈裕氏が先発して試合が始まり、西武が6-1で勝利を飾っている。石井SDは高卒1年目でしかもレギュラーシーズン未勝利の投手で、これもある意味奇襲先発だったと思う。「レギュラーシーズンで未勝利の高卒新人のシリーズ先発登板」は、史上初だったからである。

 だが、雨で20日の第3戦が中止でなければ、別の奇襲先発が用意されていた。その先発投手とは2000年11月5日に亡くなった故高野光さんだ。83年、ドラフト1位で東海大からヤクルトに入団した高野さんは、新人ながら84年4月6日の開幕戦・対大洋(横浜スタジアム)に先発。同シーズンで10勝12敗という好成績を残し、先発ローテの一角を占める存在になっていた。ところが89年に右ひじを故障し、アメリカでトミー・ジョン手術を受け、その後は厳しいリハビリ生活を余儀なくされていた。

 高野さんとはヤクルト担当になる前から顔なじみだった。なぜかヤクルトの選手や他社のヤクルト担当記者に混じっての食事会に参加し、彼が趣味のギターの弾きで鍛えた歌を聞いた記憶もある。何か縁があったのかもしれない。私がヤクルト担当になった92年に高野さんが復活したからだ。4月7日の中日戦(ナゴヤ)では1076日ぶりの勝利を挙げた。その日、感極まって涙した彼の姿は今も忘れられない。8月23日の広島戦(広島市民)では1214日ぶりとなる7勝目、プロ通算51勝目を完投で飾った試合も取材した。

 その後、故障で公式戦登板することなくシーズンを終えている。それだけに、シリーズで先発するという情報を得たときは驚いたものだ。この51勝目が結局、現役最後の勝ち星になってしまった。それだけに、シリーズでの先発登板を取材したかったと今でも思っている。(デイリースポーツ・今野良彦)

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