【野球】なぜ阪神・村上は重圧のかかるCS初戦で勝利することができたのか 右腕を助けた広島・菊池のワンスイング
「JERA CSセ・ファイナルS・第1戦、阪神タイガース4-1広島東洋カープ」(18日、甲子園球場)
たかが1球だが、阪神・村上頌樹にとっては大きな1球になったに違いない。
初回、先頭・菊池への初球は外角低めのストレート。坂本のミットが少しだけ動く。際どい球だったが、敷田球審の右手は挙がらなかった。2球目も外角低め直球。今度は少し指に引っかかった分、コースを外れた。
初回先頭打者への2球連続ボール。今季22試合の登板で、わずか1度だけだった。8月18日のDeNA戦で、佐野に対して2ボールとなって以来の珍しい姿だった。
10勝6敗、防御率1・75で最優秀防御率のタイトルを獲得した今季。村上は144回1/3を投げて、与えた四球は15。規定投球回に到達した投手の中では、DeNA・東と並んでリーグ最少となる制球力の持ち主だ。
リーグ優勝チームにはアドバンテージの1勝が与えられているとはいえ、ファーストSでDeNAに連勝を飾った広島相手に初戦を落とせば、数字上は1勝1敗だが、流れは敵軍に傾く。笑顔の裏側には少なからずの重圧があったはずだ。
続く3球目。坂本は3球連続でストレートを要求した。146キロ直球は、3球の中で一番ストライクゾーンを外れていた。だが、菊池はバットを出し、最後は片手一本になる形で、バックネット方向に転がるファウルになった。
見逃せば3ボール。村上にとって、初回先頭打者への3ボールは今季1度もなかった。3ボールを覚悟した球が一転、2ボール1ストライクになった。マウンド上の右腕はラッキーな1球に表情こそ崩さなかったが、CS放送で解説を務めた阪神OBの浜中治氏は「これは助かりましたね。3ボールでしたからね」と話し、続く140キロのカットボールで二飛に仕留め、何よりの精神安定剤となるアウトをもぎ取った。
それでも村上は、いつもの村上ではなかった。初回2死からの小園、三回2死からの野間、五回2死二塁からは菊池に四球を与えた。3四球は今季ワーストタイ。右腕が1試合で2つ以上の四球を与えたのは3度あるが、球場は楽天モバイルパーク宮城、京セラドーム大阪、東京ドーム。甲子園での1試合3与四球はプロ入り初の出来事で、フェニックス・リーグでの実戦登板を挟んでいたとはいえ、実戦勘を取り戻すのが難しかったことを示しているのではないだろうか。
四回に犠飛で先制を許すなど、本来の村上のデキではなかっただろうが、それでも6回3安打1失点と最少失点でバトンをつなぎ、チームに勝利をもたらした。
村上は「思い通りのピッチングと言えるようなデキではなかったですが、野手の皆さんに助けていただきながら、なんとか6回まで投げることができました。大事な初戦で粘り強くなげることができたのは良かったかなと思います」と振り返り、岡田監督も「フォアボール3つでしょ。今年一番多かったんじゃないかな。いつもは球数も少ないんだけどね」としながらも、「1点取られた後、すぐに追いついて、そこからまたギア上がったですね」と、悪いなりにも試合をまとめた右腕を評価した。
阪神OBの中田良弘氏は「コントロールの乱れはブランクが空いたこともあるし、やっぱりシーズンとCSでは緊張感というか空気感が違うからね。オリックスの山本だって、7回10安打5失点と崩れることがあるのが初戦というもの。まして、10月半ばで寒さを感じる中で投げるのも初めてだっただろうから、指先の狂いもあったんだろうと思う。でもね、そんな中でもシーズン通りのボールは来てた。真っすぐが走ってるからフォークで空振りする場面も多かったし。今年1年で積み重ねた経験とつかんだ自信をしっかりと投球に表すことができたと思うし、チームにとっても大きな1勝になったと思うよ」と解説した。
38年ぶりの日本一に突き進む初戦を取った。アドバンテージを含めて2勝0敗。広島の勢いを確実に止めた。関西ダービー実現に向け、阪神、オリックスの両リーグ優勝チームがともに逆転勝ちで挑戦者を退けた。「そら大きいよ」。岡田監督は最後に初戦勝利をそう振り返った。(デイリースポーツ・鈴木健一)




