【野球】侍Jと戦った愛すべき敗者たち 勝敗の裏にあった人間模様 結果では語れないスポーツの力

 台湾と東京で行われたWBC1次リーグのA組とB組の戦いが終わり、各組上位2カ国を除く6カ国が準々決勝に駒を進めることなく敗れ去った。ただ、キューバとイタリアが勝ち進んだA組は全チームが2勝2敗で並ぶ大接戦を繰り広げ、日本が4連勝を飾ったB組でも、WBC初勝利を挙げたチェコの奮闘などが光った。

 また、勝利を目指した試合に敗れ、悔しさに打ちひしがれて当然のはずなのに、相手をたたえる言葉を送ったり、試合後の敬意ある拍手に代表される振る舞いなど、愛すべき敗者達の姿も目立った1次リーグだった。

 チェコのハジム監督は日本に2-10で敗れた試合後、「満員のスタジアムでプレーできたことは感激以外の何物でもありません。日本代表は選手もファンも世界一だと思います。最高のチームでした」と発言。日本代表の選手に加え、自軍選手が敗戦後のスタンドに帽子を取って応援に対する謝意を伝えた際、日本のファンからも惜しみない拍手が寄せられたことに心を揺り動かされた思いを素直に吐き出した。

 この試合の四回には、エスカラが佐々木朗の162キロ直球を左膝に受けて倒れ込み、しばらく打席内で動けなくなる場面があった。2日後の13日、グラウンドで帽子を取って謝っていた佐々木朗が改めて謝罪のためにチェコの宿舎に出向き、両手に持った袋一杯のお菓子を手渡した。この紳士的な行動をチェコだけでなく、米国などの海外メディアも大々的に報道。エスカラの「一流の振る舞いだ。謝罪に来るなんて信じられないよ。試合に死球は付き物なんだから。日本人は素晴らしいし、素晴らしい文化。ロウキに会えて良かった」というコメントを紹介した。

 帰国直前の14日には複数の代表選手が日本が練習していた東京ドームを訪れ、大谷からサインボールをもらったスモラは「夢がかなってうれしいよ。大谷は本当にグレートガイだ。一緒にプレーできてうれしかったと伝えたよ」と満面の笑みを浮かべ、白球の交わりを通じて親睦を深められたことを喜んでいた。

 投手・大谷に4回1安打無得点に封じられ、打者・大谷に2安打2打点の活躍を許し、1-8で敗れた中国のリロイ監督は「負けました。その一言に尽きると思います。大谷がマウンドにいる時はタフなゲームになるだろうと思っていた。彼に果敢に向かい、いいスイングもあった」と自軍選手の奮闘を褒めつつ、「大谷はさすがでした。ショウヘイはショウヘイだった。いいボールをたくさん見させられた。彼のゲームプラン通りにやられてしまった」と潔く完敗を認めた。

 4戦全敗で日本を去ることになったが、75歳の知将は「数字では表すことができないストーリーがあった。多くの方がコロナを経て参加してくれた。0勝4敗は今の私たちを表せる数字だとは思いません。成長を止めないこと。合宿から大きな成長を遂げてきた。この成長を続けること、それだけです。今日の試合のように悪いこと、修正点も山積みです。その先に中国野球の未来はあります」とこの先への期待感を言葉にすることも忘れなかった。

 3大会連続で1次リーグ敗退となった韓国は、最終戦を迎える前に準々決勝進出の夢が断たれた。失意にあふれていただろう。それでも選手達は中国相手に大会史上最多となる22得点を挙げ、2勝2敗で大会を終えた。元中日・李鍾範(イ・ジョンボム)の息子で、3番打者として打率・429の数字を残した李政厚(イ・ジョンフ)は「既に結果は決まってましたが、最後まで最善を尽くすことが我々の義務なので、ベストを尽くしました」と大差になっても手を抜かない姿勢を示し続け、無念さを抱えながらも「挫折することなく、次回のWBCに向けて準備したいと思います」と懸命に前を向いた。

 全20カ国が参加している第5回WBC。笑って最後を迎えられるのは1カ国しかない。成功と失敗が幾重にも重なり合った先に勝負の結果が待っているのだが、勝者だけでなく、敗者も称賛される裏側にはプレーに表れない言葉や振る舞いが隠されており、改めてスポーツが持つ素晴らしさを感じさせてくれる。(デイリースポーツ・鈴木健一)

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