【スポーツ】元世界3位ボクサーが屈辱敗戦と同時に得たもの 細川貴之が語るBreakingDown

 超短期決戦「1分1ラウンド」の格闘技イベント「BreakingDown」(ブレイキングダウン)が一大ブームを呼んでいる。暴走族や街のケンカ屋、ユーチューバー、ホストらに加え、プロ格闘家、元ボクサーも参戦。過激な挑発合戦にも反響が大きい。

 7月の第5弾大会では衝撃も起きた。プロボクシングで世界ランキング3位まで上がった元日本ウエルター級王者、東洋太平洋スーパーウエルター級王者・細川貴之(37)がまさか、ケンカ自慢の“素人”てるに判定0-5で完敗した。

 素人と勝負するリングに上がることすら、快く思わないプロボクシング関係者もいる中、ましてや敗戦。批判を受け止める細川を取材し、出場した思い、同イベントの魅力など話を聞いた。

 「ボクシング界を背負っているわけではないけれど、バックボーンがボクシング。ほんまにボクシング界に申し訳ないと思っている」と数カ月過ぎてもショックは癒えない。

 細川はパンチ力のあるタイプではなく、変則サウスポーで長いラウンドをしぶとく戦い接戦を勝ち切るのが持ち味。超短期決戦向きではないものの、16年間、何万、何十万発もミットを打ち、サンドバッグをたたき、のし上がった。中量級で世界王座挑戦を狙う地位にあった男だ。

 なぜ負けたのか-。2017年に引退し実戦が5年ぶりだった影響は大きい。「正直なめていた部分はある。そこはあかんかった。3分とか5分あれば全然違った」と悔やむ。

 試合開始早々には股間に蹴りを食らい、戦闘不能。ボクシングとは違い、回復しないまま試合は再開された。「ボクシングのローブローよりも効いた。(股間を守る)カップもアマゾンで買った安いやつだったから。つぶれたかと思った。反則やけど、注意で終わり」と痛恨だった。

 ハイキックを肩に食らい、反撃も及ばず時間切れ。「蹴りもパンチも全く効いたものはなかった」。ボクシングで中量級の猛者のパンチに比べれば、ダメージなど全くなかった。ただ、「見栄えが悪いですよね。1分なら勢いもあるから。相手はスタミナがないから崩してと思ったけど、勝たないといけない相手。素人がプロに勝つという、その役に自分がなってしまった」と自らを責めた。

 観戦していた元WBA世界ミドル級王者・竹原慎二氏からは「出るんなら昔みたいに練習しろ。ずっとボクシングしてた時くらい練習をやってから臨め」と説教を受けた。“レジェンド”の言葉を胸に「負けたまま終われない」と雪辱の機会を狙う。次戦へ向け、しっかりとスパーリングを重ねる考えだ。

 屈辱の敗戦の一方で“名前を売る”目的は想像以上の成果があった。ともに同大会に出場して判定勝ちした元東洋太平洋バンタム級王者・山本隆寛と2人で配信するYouTube「たかゴリch」は登録者数が倍増の約2万人に伸びた。

 「普通に街を歩いていて声をかけられるようになった。周りがざわついたりする。それくらい違う」。出場が決まっただけで、スポンサーから190万円が集まった。ボクサー時代にすら経験がない程、注目度はアップ。大阪・北新地で経営する「bar the GORILLA」にも「ブレイキングに出てた方ですよね?」と一見(いちげん)のお客さんが増えたという。

 “ホンモノ”を破ったてるは一夜にして大ヒーロー。「芸能人みたいに声をかけられているみたい」と、細川も驚く程だ。

 古巣ボクシング界に関しては「よくは思ってないでしょうね」と細川は言う。それでも「(リングサイドに)芸能人80人。あんな緊張はない」と、あれ程、華やかな舞台で戦ったのは格闘家人生でも初めてだった。

 総合格闘家で人気ユーチューバーでもある朝倉未来と弟の海がスペシャルアドバイザーを務める同イベント。前回大会の関連動画再生数は1億回以上、計量の生配信は同時接続10万以上、試合のペイパービュー売上は過去最高。人気は半端ではなく“1分”にしてスターになる可能性を秘めているイベントなのだ。「まだまだ出たい人はいる。出たくても応募が多すぎて(オーディションに)受からない」と細川。元プロボクサー参戦の流れは今後も続くという。(デイリースポーツ・荒木 司)

 ◆細川貴之(ほそかわ・たかゆき)1984年12月14日、大阪市出身。大阪・阪南高を卒業し2002年、六島ジムからプロデビュー。14年、日本5階級制覇王者の湯場忠志が持つ日本スーパーウェルター級王座に挑み判定勝利で王座獲得。15年に東洋太平洋スーパーウエルター級王座を奪取。16年にIBF世界同級3位にランクされた。網膜剥離のため17年に引退。戦績は29勝(9KO)11敗5分け。身長173センチ、サウスポー。愛称は「ほっそん」。

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