【競馬】清山助手が秋のG1に送り出す2頭に注目
下半期のG1がスタートした。この秋、最もアツい助手といっていいだろう。西の腕利きが担当馬2頭でG1勝ちを狙う。
「あの人の仕上げ、好きなんですよ」。札幌で2連勝したディナースタについて、横山和生騎手に聞くと、こんな言葉が返ってきた。
3勝目を挙げた前走のレース前。ディナースタを担当する“あの人”からは「良くなったという感じはないかな。キープはできていると思うけど」と聞いた。そんな経緯を横山和Jに伝えると、「状態は上がっていなくても、中2週で(状態を)落とさないことが難しいんです。夏の北海道で、札幌から函館、函館から札幌と移動して、維持していましたからね」と返ってきた。なるほど。取材すると“上積み”や“良化”といった言葉を求めてしまうが、維持することも腕が問われるのだ。
“あの人”とは辻野厩舎の清山宏明助手(54)。1986年に騎手課程の第2期生としてJRA競馬学校を卒業し、同期には松永幹夫(現調教師)、横山典弘、熊沢重文らがいる。93年の京阪杯ロンシャンボーイで重賞初制覇。同年の鳴尾記念でルーブルアクトの単勝馬券(9870円)を握りしめていたワタクシはジョッキー・清山のファンでもあった。そんな清山さんが騎手を引退したのは2002年6月。07年から名門・角居厩舎で助手として従事し、代表的な担当馬はキセキだろう。
ディナースタは菊花賞(10月23日・阪神)でラスト1冠を狙う。「去年、初入厩の時に絶対にG1へ行けると思ったんだ。でも、緩過ぎて。兄(ジャックドール)が3歳秋から連勝したし、父ドゥラメンテはキンカメ系なので遅いやろうな、と」。ファーストコンタクトで高い能力を感じた仕上げ人だったが、同時に遅咲きなことも察知していた。初勝利は5戦目。「何もしないのはこの素材に申し訳ない。花開く時に備えて、必要なことを少しずつ上乗せした」と春を振り返る。
札幌で2連勝。前走は大跳びの馬には苦手な渋った馬場もこなした。「まさか、あんなに強い競馬するとは思ってなかった。ノメってるし、脚を取られているし。あの馬場で勝ったのはポテンシャル。3000メートルを走ったに値する内容だった」。タフな洋芝の稍重で勝ち、スタミナ勝負の菊花賞に手応えをつかむ。
もう一頭の担当馬もG1馬候補だ。今年3月に美浦・高橋祥厩舎の定年解散によって辻野厩舎へ転厩したカラテ。マイラーズC、安田記念の2戦は振るわなかったが、「転厩したばかりで、まだ手探りだった。美浦では爪の不安もあったので、そこまで攻められなかった」と振り返る。そして迎えた新潟記念。「ひと夏を越して不安がなくなり、いい状態で帰ってきた。マイル仕様ではなくて、ゆとりを持たせた方がいいんじゃないか、と追い込まなかった」。2000メートル仕様に施し、3カ月ぶりでも転厩以降、最も納得のいく仕上げ。工夫も実り、久々の距離で重賞2勝目を手にした。
次に見据えるのは天皇賞秋(10月30日・東京)だ。「カラテをどう仕上げたらいいのかが、ある程度つかめた。転厩で、その思いを引き継いだわけですから。前任の調教師、担当者の思いは計り知れない。一走、一走が注目されるし、新しいステージに進めれば」と力が入る。
清山助手といえば、キセキを思い出すファンも多いだろう。菊花賞を制したあと、勝利を挙げることはできなかったが、G1で2着が4回。愛馬への感謝を口にする。「キセキで経験したことはすごく大きい。悔しい思いを一杯して、それを晴らすために過ごしたキセキとの時間は貴重ですね。ウオッカやラキシス、多くの活躍馬に携わらせてもらって、キセキに生かすことができた」。キセキの経験を現在の担当馬に生かす。そんな思いで向き合っている。
騎手生活は16年、助手になって20年がたつ。最初の5年が調教騎乗に専念する攻め専助手だったため、担当馬のある持ち乗り助手は15年を数える。「今の経験を持って、昔に帰れば、ジョッキーとしてもっと違うアプローチ、レースの組みたてができたと思う。反省があるかな。でも、ジョッキーの経験があったから今がある。何が武器で何が弱点か。芝、ダート、距離、坂。フラットな方がいいのか。ジョッキーとして経験したことが大きい」と、約36年の競馬人生を振り返る。
清山助手がブレずに貫いていることは何なのか。「最近よく思うのは人間が諦めたら終わりだな、と。そこは強く思うようになった」と語る。厩舎は開業2年目。調教師は同じ角居厩舎の出身だ。「みこしを担ぐ側なので、担ぎ手としてはみこしを大きく。そして、みこしに乗る棟梁を男前にしたい」。重賞2勝のロータスランドに加え、ディナースタ、カラテが屋台骨として厩舎を支える。今秋、清山助手がどんなスパイスを加えて仕上げるのか。注目したい。(デイリースポーツ・井上達也)