【スポーツ】肉体改造で正攻法身につけた宇良、もう“異能”ではない

 21場所ぶり幕内復帰した大相撲名古屋場所で10勝を挙げ、大いに沸かせた人気業師の宇良(29)=木瀬=だが、またしても三賞は遠かった。敢闘賞に名前が挙がりながら、票が当選に届かず。11勝の好成績で技能賞候補となった2017年夏場所同様、あと一歩で受賞を逃した。

 「前回も自分の相撲が技能ではないと言われた。もらえないのは納得している。縁がないんだと思って」と、受け止めた。

 先場所、技能賞に輝いたのは身体能力の高いホープ豊昇龍(立浪)。下手を引き強烈な投げや、大関正代(時津風)を破った足技など多彩な攻めが光った。最近の受賞では新小結若隆景(荒汐)が左右のおっつけを絶賛された。四つ身の鮮やかな遠藤(追手風)は同賞の常連。押し相撲でも大栄翔(追手風)らが獲得している。

 四つ身でも押しでも、当たって前に出るのが相撲の王道。その基本を確立した力士が評価の対象となる。角界は奇策を好まない。

 2017年名古屋場所、大関高安(田子ノ浦)戦で宇良は長い助走を取って突進。その他にも仕切り戦から大きく距離を取っての立ち合いなど奇襲もあった。宇良の相撲が技能ではなく“異能”とされた理由だ。

 しかし、今のスタイルは当時とは変わっている。2度の右膝手術で序二段まで降下。長いリハビリを乗り越え、約3年半ぶりに幕内に戻ってきた。体重は約145キロまで増え、ビルドアップされた肉体はもう小兵ではない。

 10日目の千代の国(九重)戦ではスピード、パワーもある突き押し相手に真っ向勝負。圧力を跳ね返し押し勝った。14日目に突如、組まれた新小結明生(立浪)には、相手得意の左差しを許しながら、四つ身でがっぷり。前みつを取って、力勝負で寄り切ったのだ。

 「逃げ回って、その中で勝機を探る相撲はもう取りたくない」

 3度目、右膝じん帯を断裂すれば、もう最後。崖っぷちから復活へ宇良が3年以上もかけ取り組んだのが肉体改造し、押されない圧力を手に入れること。やせやすい体質のため、「起きてる間中、食べている」と食トレ。夜中にダブルチーズバーガー(パティが倍の4枚)を口に入れ、「修行」の日々を送った。

 圧力は増し、以前に比べ、寄り、押しの決まり手が明らかに増えている。一方で押されなくなったことで、多種多様な技を先に仕掛ける相撲も目立つ。

 9日目の宝富士(伊勢ケ浜)戦では相手の差し手をつかんで取ったり。12日目、栃ノ心(春日野)戦では肩すかしを強引に連発。最後は突き落として怪力を仕留めた。

 代名詞の奇手「居反(ぞ)り」も「形になれば」いつでも抜く覚悟でいる。何を繰り出すか分からないワクワク感はありながら、正攻法スタイルを備えたニュー宇良。「それが評価に値されなかった。しっかり自分の中で受け止めて頑張っていく」と前だけを向く。

 まだ復帰1場所目。番付を上げる秋場所(9月12日初日、両国国技館)以降、三賞チャンスは何度もある。

 レスリング経験があり、独特の低空立ち合いも含め“アクロバット力士”と呼ばれる。それでも宇良は言う。

 「レスリング出身と言われてますけど相撲を4歳からやってきて、ずっと相撲に軸を置いてやってきた。僕は一生懸命、相撲をやっているつもり。全部、相撲にある技ですからね」。業師としての強烈な自負がある。もう“異能”ではない。(デイリースポーツ・荒木 司)

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