【競馬】送り出す側から送り出される側へ オークスで変わった藤懸貴志騎手

 今年のオークスで初めてその名を知った方もいるのではなかろうか。藤懸貴志騎手(28)=栗東・フリー。16番人気のハギノピリナで挑み、低評価に猛反発。人馬一体で猛然と追い込み、勝ち馬ユーバーレーベンと0秒1差の3着。超大穴をぶち開け、全国にその名を知らしめた。

 多くの人が注目するクラシックで存在感を発揮した28歳は、デビュー11年目にして今回がG1初騎乗だった。普段の乗り鞍も決して多い方とは言えず、ここに至るまでの道のりは平たんではなかったが、地道な努力の積み重ねがこの舞台を引き寄せたと言ってもいいだろう。

 レースでの騎乗は少なくとも、手間を惜しまぬ丹念な馬づくりで、調教師をはじめ関係者からの信頼は厚い。日頃、調教にまたがる頭数は栗東でも屈指で、週中はトレセン内を東奔西走。その数は年間延べ1000頭を超え、G1馬のケイコをつけることもしばしばだ。「3、4年前から乗った馬は全部メモをつけています。調教のしぐさとかを知っていると準備できますし、イレギュラーも減りますから」。自分がレースで乗らない馬でも、ベストな状態で出走できるように-。マメな裏方仕事が周囲から高く評価されてきた。

 そんな苦労人が初めて勝ち得た夢舞台。オークスへの出走が決まってからは、「素直にうれしい気持ちでしたけど、そこからですね。今までは“送る側”でしたけど、当事者になって今まで以上に『人馬ともにとにかく無事に』と思うようになりました。馬も僕もケガしちゃいけないですし、騎乗停止でも駄目ですから」と、普段よりも慎重な心持ちで過ごしたという。

 そんな思いを抱くのも過去の経験があるからこそ。G1騎乗は今回が初めてと記したが、実は16年にヤマニンボワラクテと天皇賞・春に挑めるチャンスがあった。しかし、直前に騎乗停止処分を受けて無念の乗り代わりに。「G1とは縁がないのかな、このまま行ってしまうのかな」と弱気になったこともあったと明かす。それでも、「ピリナで壁がなくなった感じがあります。目が覚めましたね」と、今回の経験が前を向く大きなきっかけとなったようだ。

 「間違いなく今年が騎手人生の中で大きな節目でしょうね。クラシックで勝ち負けという景色を見られましたから。G1を勝ちたいと思うようになりました。直線は本当に悔しかったし、まさかあんな感情になるとは思わなかった。初めての感覚。あれを味わったら『ジョッキーはこうでないと。G1で戦わないと』と思うようになりました」

 今まではビッグレース出走馬の調教をつけて送り出す側だったが、これからは送り出される側へ-。ハギノピリナとの激闘はただの3着ではない。「これからも一つ一つ、調教から丁寧に乗ることが目標」とやることは変わらないが、意識は変わった。この経験を糧に大きく飛躍してみせる。(デイリースポーツ・山本裕貴)

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